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実家のある駅からタクシーに乗り紗奈が実家の住所を告げると運転手の顔つきが変わった。ちらりちらりと紗奈と俺を見て何か言いたげな顔をする。
運転手はとうとう口を開くことはなく、驚くほど巨大なお屋敷の前にタクシーは停まった。
デッカイ表札に松浦と毛筆で力強く書いてある。
あんぐり口を開け呆然としちゃった俺を紗奈が引っ張ってその豪邸の玄関に入ると年配の柔和な笑顔を浮かべた女性と、俺よりも若く見える背の高い目の細い女性が出てきた。
慌てて頭を下げると年配の女性が「私達は家政婦ですから、頭をお上げ下さいませ」と優しく言った。
まるで旅館みたいな広すぎる玄関の正面には幾らか分からないがたっかそうな壷があった。
それを見てやっぱりお金持ちの家には壺があるんだな、なんて馬鹿な事をぼんやり考えていると「早く」紗奈に腕を引かれた。
家政婦が「こちらでございます」と廊下の一番奥の部屋の前で囁き、屈んで障子を開いた。
中は広い和室だった。
床の間の前に年配の男性を真ん中に両脇に若い男が座っていて紗奈と俺を一瞥すると顔色を変える事なく目を反らした。
でっかいテーブルの前に三人とも正座。
背筋がピンと伸びた感じから推察される年齢より若く見えるがこの年配の男性が紗奈の父親だろう。
紗奈のが先に三人の正面に座り、俺も倣う。
正面から三人を見ると良く似ている。
紗奈とは違う顔つき。
紗奈は小顔で顎がシャープだがこの三人は紗奈に比べると四角い。
母親似なんだと思う、ついでに唯ちゃんも。
「お久しぶりです。お母さんは?」
沈黙の中、紗奈が口を開いた。
「……勘当した娘に会う気はないってさ。ろくでもないのと結婚なんて紗奈にはお似合いね、だって」
くすっと笑った向かって右の男に隣の気配が怪しくなる。
ろくでもないって、俺の事か?
いやここには俺しかいないか。
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