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「寛人、止めなさい」 「はいはーい。でもそう伝言されたんだよね。俺が言ったんじゃないよ紗奈、と旦那さん。あ、あと子供が産まれてもこっちには連れてこないでねってさ、お祝い金払いたくないって」 「寛人、いい加減にしろ」 「はいはーい。開人兄さん、でも俺、これも伝言頼まれたんだもん」 悪びれもせず、寛人と呼ばれた三人の中で一番間延びした顔の青年が肩を竦めまた笑う。 これが母親の言うことか? 孫だぞ? いや、冗談だろう、んなこたぁねえよな。 「紗奈、自分で決めた道だから貫きなさい」 年配の男性は落ち着いた声でそう言った。 「……はい」 「ここにはもう来るな」 「分かってる」 それだけ言うとすっくと立ち上がりゆっくり部屋を後にしようとする。 「お義父さん!」 「……君にそう言われる筋合いはない」 背中がぴしゃりと言う。 ちらりとこちらを見た眼はまるで氷のようだ。 一瞬怯んだ俺を鼻で笑う。 頭に血が上った。 「お嬢さんを下さい!必ず幸せにしてみせます!」 背中はこちらに振り返る事なくすっと開いた障子の向こうに消えた。 障子が閉まって数秒後、寛人がヒューっとおかしな声を出した。 「あんたなかなか面白いね」 寛人がケラケラと笑いながら「ね、」と開人を見る。 「寛人。……白井さん、すみません。私はこの家の長男、開人と申します。父も母も無作法で申し訳ない。この通りです」 開人と名乗るいかつい顔の青年は一歩下がると頭を下げた。 「いえ、いえこちらこそ、よろしくお願いします。頭を上げてください」 慌てる俺をしり目に寛人が甲高い声で「兄さん頭上げてあれ、早く書いてもらえば?」と言う。 ゆっくりと頭を上げた開人は寛人を一睨みした。 そして小さく咳払いすると先ほどの優しげな顔を一変させ眉根を寄せた難しい顔になる。 「紗奈には高校を卒業と同時に結婚する予定がありました。我が松浦家と懇意にしている資産家の次男です。でも紗奈はそれを嫌がって家を飛び出しました。 松浦の家はその事で信用の意味でも金銭的意味でも大きな損害を被ったのです。 白井さんもお判りになりますよね? その紗奈が突然結婚する、挨拶したいと言ってきた。今まで一度の連絡もなかったのに」 それは自分が頼んだからだ、そう言おうと思い口を開こうとした瞬間紗奈が腕をぐっと引いた。そして口を挿むなとばかりに首を振る。
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