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ああ、俺あの時も好きだって言われたんだよなあ……
ほんと紗奈って俺にべた惚れだよなあと思っていると紗奈が宮倉に買っておいたケーキを出しながら「揉めてないと思う」と言う。
「松浦家は男子至上主義だから私なんかよりよっぽど唯ちゃんの方が可愛がられていたよ、長男なんかは溺愛してた」
紗奈がケーキの乗った皿を宮倉の前に差し出すと宮倉が軽く頭を下げた。
そう言えば、と思い出す。
あの時の帰り際、開人が何度も唯ちゃんの様子を聞いてきた。
そして……あ、そうだ、一度帰るように言ってくれって言われたんだ。すっかり忘れてた。と言うより忘れたかったから記憶の奥に押し込んでいた。
「へえ、」
「捨てられたって言うのは……宮倉さんは、唯ちゃんから実家の事聞いてる?」
「いえ。聞いても濁すばかりで、」
「そうかぁ。うーん、」
紗奈は自分のコップを引き寄せハーブティーを一口飲んだ。
この暑いのに、ホットだ。母乳の出がいいらしい。
「まあ、聞いててもらった方がいいか。うちらの実家、結構金持ちなのよ。私の上に兄が二人、一人が父の地盤を継いで国会議員をしていてもう一人が会社を継いでる」
「お兄さんは二人いたんですか?」
「そんな事も言ってないの?困った子ね」
眉根を寄せて紗奈がため息をつく。
「そう、二人。捨てられたって言うのは……もしかしたら母が何か言ったのかもしれない。あの子、『兄達に何かあったらあなたが家を継ぐのよ』って小さい頃から言い聞かせられてて。三男だからね。今もう兄達二人とも家庭を築いていて、どちらの兄にも息子がいるから母に『用済み』って釘刺されたのかもね」
「用済みって……」
宮倉が鼻で笑う。
俺もその気持ち、良く分かる。
俺が知っている、普通の家庭ではそんな事母親は言われない。
いつでも暖かく迎えてくれるのが母親だと信じていた。
でも……今、紗奈の家ならあり得ると思っている。
「うちの母はそういう事を言う人なの。そうやって突き放すからかな、唯ちゃん本当、母にも父や兄にも従順でね、端から見てると痛々しかったな~。そうしているうちに母が許すような行動しかしなくなっちゃって……ちょっと心配してた」
「あ……唯ちゃんて、通常じゃない手順踏むのすごく嫌がるとこあるわ、そういうのもあれかな、後遺症?的な?」
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