第1章

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松浦は食に全く無頓着だがこういうのは拘る。 洗剤も自分が使っていたドラッグストアに売ってあるものとは違う、見たことのない海外の物……しかも聞くとかなり高価……だ、そして、これも。 宮倉は浴室にある窓辺に置かれた入浴剤を開いた。 ふわっと甘い匂いが浴室中に広がる。 パッケージに花が描かれているからこの花の香りだろうと思うがこんな花は見たことがない。 こっちの値段は聞いてないがこれもかなりお高いのだろう。 本人がいないけれど失敬しよう、あとで新しいのをプレゼントするか。 規定量を取り出し浴槽に撒いた。 鼻孔いっぱいに名も知らぬ花の香りを吸い込んでこれは松浦の、ベッドで漂わせる匂いだ。 曇り止めのよく効いた鏡に背中を映してみる。 これのどこがそんなにいいものなのか分からない。 水泳選手でもあるまいしどこにでもある男の後ろ姿としか思えない。 でも松浦はこれに執着していた。 何年もそれ見たさに駅で待ち伏せする程。 ふっと長いため息を吐いて浴槽のに身を沈めた。 初恋かぁ。 自分にも覚えがあるし、それはその後の生き方に少なからず影響はあった。 でも松浦のように思いを引きずることは無かった。 無かったと思う、多分……
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