第1章

9/22
前へ
/43ページ
次へ
ベッドに横になっても布団から松浦の匂いがしてやはりここに帰るんじゃなかったと後悔した。 一人で寝るには広いベッドだ。 どうしてこのベッドを買ったのかと尋ねたら松浦は決まり悪そうにごろごろしたいから、と答えた。 その顔が可愛いと思った。 いつも、自分が先に起きる。 まあ当然と言えば当然かと思う。 無理させている、自覚はまあ、多少はある。 松浦は掛布団を頭からすっぽり被り中で身体を丸めて寝る。 変わった寝方だと思う。 初めて一緒にここで寝た時先に起きたのかと思った。 いつも寝入りは俺の腕のなかに居るのにいつの間にか離れ潜っている。 癖はそう簡単に変えられないだろうけどまあ……起きて傍にいないのは面白くない。 朝は大抵起きてこないので自分が起こしにいく。 大きなベッドの、押したら落ちる程端にいつも松浦はいる。 人型に膨らむ布団。 まるで蚕の作る繭みたいだなと思う。包む物の種類が違うけど。 そっと布団を開くと頭頂が見えてくる。 巻き込むように布団の端を抱いて顔に押し付けているので布団を引くと松浦は起きる。 寝ぼけ顔で一度俺を見ると暫くして顔を隠す。 そして小声で「おはよう」と呟くんだ。 松浦の事を思えば会いたくなる。 宮倉は思い浮かべた映像を振り払うように目を閉じ頭をを揺する。 グダグダ考えずに寝よう。 明日は出張から帰ってくる。 泣いても叫んでも抱えて連れ帰る。 松浦の家はここだ。 白井の家に泊まるなんて冗談じゃない。行かせるものか。 そんなに離れたいならそうしてやる。 出ていくのは松浦じゃない、俺だ。
/43ページ

最初のコメントを投稿しよう!

401人が本棚に入れています
本棚に追加