scene.1

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「私服がださい俳優ランキング20代男性部門の栄えある1位に輝いたのは、ドラマや映画で数々のヒットを打ち出し、美しすぎると話題になったCMでもお馴染みの俳優、ナナセさん」 「……おい」 「その理由は大抵同じような服装をなさっているから……」 「……これ以上心の傷を抉るつもりなら俺はもう帰る」 くるりと踵を返すと、浅野が結構本気で笑っているのが聞こえた。 この男がここまで笑うなんて滅多にないことなので、なおさら腹立たしい。 人の不幸がそんなに面白いか馬鹿野郎。 2週間半ぶりの逢瀬なのだが、そっちがそのつもりならこっちだって黙ってはいられない。 本当に帰ってやろう、と歩きだしたら、右手首をグイッと引っ張られた。 「まあ待ってください」 俺は振り返って、渾身の力で浅野を睨みつける。 「じゃあ今お前が小学生の国語の授業よろしく丁寧に音読してた雑誌は捨てるな?」 「捨てんのは構わねえが、それで七瀬さんのファッションがださいことに変わりはないんですよ」 「……」 何も言えない。 そう。そうなのだ。 俺は本日発売の某雑誌によって、20代男性俳優の中で最も私服がダサい男という大変不名誉な称号を頂いてしまったのだ。 どうやら芸能人や芸能関係者から独自のルートでアンケートに回答してもらい、その結果を集計したものらしい。 独自のルートってのがどうも引っかかる。公表してほしいものだ。 じゃないと俺はこれから『人を見たら泥棒と思え』の精神でありとあらゆる人に疑惑の眼差しを向けなければならなくなる。 つまり、俺は一緒に仕事をしていた人たちに『あ、こいつ今日も同じような服着てる』『こだわりとかないのかよ』『ださいなあ』なんて思われ続けていたってことだ。 そうとも知らずのほほんとしていたんだよ俺は。 あまりにも悲しい。 確かに俺はファッションに凝っているとは言えないだろう。 気温によって半袖か長袖かに切り替えるだけで柄は全部無地。 下はジーパンか黒のパンツしか履かない。 でもそれは機能性を重視した結果なのであって……もう何言っても発売されてしまったから取り返しはつかないんだけどさ。 「そんなにださいかなあ」 「だせえことに気づいてないってところがすでにだせえんじゃないですか」 「腹立つけど、間違ってない……」
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