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湯に浸かって身体をほぐしたおかげで、俺は立ち直りつつあった。
立ち直ったというよりは、開き直ったのだ。
金もかからないし、服選びに時間がかかることもない。良いこと尽くめじゃないか、うんうん。などと頷きながら脱衣所を出る。
LDK部分に奴の姿が見当たらない。
俺は電気を消してからヤリ部屋――じゃなくて寝室に向かった。
「ああ、機嫌は直りましたか」
ベッドのヘッドボードには白い枕が2つ立て掛けられていて、そのひとつに浅野が寄り掛かっている。
手元の携帯から目線を上げて、ニヤリと口元を緩ませた。
こっちに来いと手招きされたので、隣の枕をクッション代わりに寄り掛かる。
「んな遠いところに座るなんてツレねえな」
「これのどこが遠いんだ」
隣だぞ隣。
これ以上ってなると、上に乗っかるくらいしかない……ああ、そういうこと。
「ほら、来てください」
「はいはい」
長い付き合いのせいか、こういうあからさまなのは恥ずかしくない。
恥ずかしいのは不意打ちだ。
浅野の腿を跨いで、シーツに膝をつく。
満足かと聞けば、浅野はなぜか眉を寄せて難しい顔をし、首筋から鎖骨にかけてを嗅ぎ始めた。
「うおっ! 唐突に何を始める気だよお前は」
「色気のねえ声だすんじゃねえ……ン、ちゃんと消えてるな」
「何が?」
「女のニオイ」
三白眼がギラリと光った、気がした。
思わず背筋が伸びる。
俺が漫画のキャラクターなら、今頃『ぎくーっ!』なんてデカい文字を背景に書き込まれているところだ。
なぜわかるんだこいつは。
さっきそこまで近い距離にいなかったよな。
なのになんで俺が……キャバクラに行ったことがバレてるんだ!
「で、どこほっつき歩いてたんです」
「……キャバクラ」
「へえ」
「でも誓ってやましい気持ちは……」
「一万歩譲って行く前までは無かったとしましょう。だが、店に入って席に女が付いても何も感じなかったと?」
「そ、それはその……」
「でけえ胸だなあ、だの、尻のラインが最高だ、だの思わなかったと?」
「……」
「一瞬たりとも?」
「そりゃ思ったよ! 思いましたよ!」
やけになって答えれば、はあ、と溜息を吐かれる。
俺だって男だもん、素敵なボディを目にしたらやましい気持ちのひとつやふたつやみっつ……仕方ないだろう。
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