ある片想いのカタチ

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そんな或る日、介護福祉士の見習いとして一人の青年が施設にやってきました。 吉成穣くんといって、背が高くて痩身で鼻筋が通ったなかなかのイケメンでした。 眼の色が光の当たり加減で少し緑がかって見えたりするので、 私はきっと白人系のハーフかクォーターじゃないかと思っていましたが、 本人は瀬戸内海にある小さな島の出身だとしか言いません。 話す時の声の音程が低めですごく聴き易いので、この人はきっと歌を歌わせたら うまいのもしれないと私は勝手に想像を巡らせました。 施設では若い男の労働力は得難く貴重です。 力仕事が殺到して穣くんは引っ張りだこ。 それでも声をかけられる度に嬉しそうに明るい声で「ハイ」と言って飛んでいく。 若いっていいなって思いました。 それに、見てるだけでも癒されそうな優しい眼差しと甘い笑顔です。 ふと、この人は違う世界で、違う生き方のできる人なのかもしれないと思いました。 何故こういう世界に彼がやってきたのか、ちょっと不思議な気がしました。 何かの拍子に穣くんはおばあちゃん子だったという話を聞きました。 穣くんが10歳の頃に両親が事故で亡くなって、その後は、おばあちゃんに引き取られ、育てられたのだというのです。 そのおばあちゃんが去年亡くなってしまい、殆ど身寄りもないという話をした時、私はなぜかキュンときて、彼を抱きしめたくなってしまいました。 彼の発する言葉の響きが、孤独な余韻に満ちていて流れ星のようにはかなく、 印象的だったからです。 まあ、それはおいといて、彼が来てくれたお陰で、施設の中はどことなく 賑やいだ感じになってゆきました。 好きもののおじいちゃんがいる話は前にしましたが、その逆もあって、 おばあちゃんの中には穣くんに色っぽい流し目を使う人もいました。 握られた手をずっと離さない大胆なおばあちゃんもいました。 何より変化が見られたのは、英語の二都物語を読んでいるおばあちゃん、 牧田静さんです。 初めて穣くんを静さんに紹介した時のこと、読んでいた本から眼をあげた静さんの?にさっと赤味がさすのが遠目にもわかりました。 挨拶代わりに黙って小さく頷いただけで、静さんはそれからそっけなく窓外を見続けていました。まるで高ぶる心を鎮めるかのように・・・。
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