ある片想いのカタチ

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静さんは、私達の知らないところで、いつの間にか16歳の少女になっていたのです。静さんは16歳の少女で、20歳すぎの穣くんと恋をしていたのだと思います。 そして、クリスマスイブに、76歳の静さんは愛の告白をしようと心に決めたのです。でも穣くんは何故か現れず、燃え上がった恋心を抑えきれず、静さんは穣くんを訪ねるために雪の降る朝、施設を飛び出たのです。 でも、どこに行けばよいか分からなかった・・・。 穣くんがどこにいるのかも知らずに飛び出してしまったのです。 途方に暮れて、座り込んだ静さんに深々と雪は降りつもります。 寒さに凍えながらも心の中では静さんは熱い情熱に身も心も恋焦がれていたんだと思います。 静さんは16歳の少女のまま息を引き取りました。 最後の最後に静さんの前に初恋の相手は現れることはなかったのです。 その想いは伝えることはできました。 手紙を読み終わった後の、穣くんの号泣する声がトイレの外まで聴こえてきました。 施設の中は、その泣き声に打たれたように静まりかえっていました。 それからしばらくして、穣くんは外国に旅立っていきました。 外国で医療の勉強をすると言って、施設を辞めたのです。送別会も断り、さり気なく施設を去っていった穣くんに、私は何か伝えたいと思い、手紙を書こうとしました。 でも、とうとう書くことも伝えることもできませんでした。 それは、静さんのラブレターがあまりにも素敵だったから、到底勝ち目はないと諦めたからです。 「あなたは私の命よりも大切な人」そんな言葉を綴った静さんの激しい想いにはかなわないと思ったからです。 でもいつか私も、真情溢れる愛や恋を言葉にする相手に巡り合うことができる筈です。30過ぎても私は女、たとえ40過ぎても50過ぎても、静さんのようなやけどをしそうな熱い恋心を抱く女でありたいと思っています。
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