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だがこんな状態の千穂を放っておくのが危険なことだと知っている二人は、慌てて話を元に戻そうとする。
「のえるちゃん、その人って他に何か言ってたりした?」
「えっと、千穂兄さえ良ければ、今度会いに行くって言ってました」
「そっか…。千穂、どうなの?」
平人の問いかけに、千穂は一度口を閉じた。それから顔をしかめつつ、しぶしぶといった様子で応える。
「わかった。のえるのその知り合いにも興味があるし、そのなくした物が何なのかを本人に聞いてからまた決める」
それとな、と顔を歪めてまた悪い顔をした千穂は続ける。
「俺は誰かの便利屋じゃないんだぜ?」
わかった、と言った千穂に対して一度明るくなった二人の表情は、その次の文句によってまた暗い表情に戻った。
彼らの様子をうかがっていた周りの人も、千穂の言い分に背筋を凍らせた。
「ああ、昼休みが残り少ないや…」
なんて言いながらやっとのことで昼食の食券を買いに行く千穂は、後ろ姿でも充分な程にのえるを震え上がらせたのだった。
のえると同じく硬直していた平人が、暫くして我に返り千穂を追いかけたのだが、その顔が青かったのは蛇足である。
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