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「私がどうかしたんですか?」
その人が放った少し低めで落ち着いたトーンのよく通る声に、
(うわさをすればなんとやら、とかいうやつがあったっけ…)
平人はぼんやりとそう考えた。
彼らが『えむちゃん』や『水江』と話していた、その本人が二人の目の前に…正確には、二人の座るテーブル席の横に自分の存在を知らせるかのように立っていた。
目の上でそろえられた前髪に、艶やかなストレートの黒髪は無造作に肩にかかっている。髪と同じ色の目はよく細められていて、フルネームは水江歩夢<みずのえあゆむ>という。
「あれ、講義はどうしたの? のえるちゃんと同じやつとってたよね?」
「はい。ですが、今の時間は講義なんてありませんよ? それがどうかしましたか?」
彼女の返答に千穂も平人も声を大にして笑った。
つまりのえるは、千穂といる気まずさからカフェテリアを抜けただけだったのだ。
「大丈夫ですか? かのとさん」
「なんでピンポイントに俺? それにさ、その呼び方やめようよ…えむちゃん」
「ならあなたもやめてください。私は歩夢ですから」
胸に手を当てて、歩夢は言い聞かせるように言った。
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