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そろそろ四限が始まろうとしていた。千穂は無言で立ち上がると、テーブルの上の荷物を片付けた。
「じゃあ、先に行くから」
「え? ちょっ…待とうよ!」
千穂と同じ講義をとる平人は彼の突然の行動に戸惑いながらも、カフェテリアを出て行こうとするその後ろを慌てて追いかけた。
そんな彼らを注視していた人が多いことを知っている千穂は、平人に聞こえないように舌打ちをした。
☆ ☆ ☆
「で? 何なの、お前?」
千穂が依頼者に会って最初に言った言葉である。
この発言には理由がある…のかもしれない。
遡ること数分。
講義も終わり帰ろうとする千穂達の前に、一人の男が立ちはだかった。
黒髪のその彼は前髪が目を隠す程長く、どこか陰気な印象を与える人だった。
だが、前髪の間からちらりと見えた目は鋭く千穂を睨みつけ、千穂はそれを軽く受け流していた。
そして千穂達より少し背の低い彼は、ゆっくりと口を開くと変わらぬ目で見上げながら無愛想に言った。
「なくした物が帰って来ない。できれば、あんたらに探して欲しいんだけど」
暫く相手を観察したあと、千穂は面倒そうに口を開いた。
「で? 何なの、お前?」
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