壱・『失せ物』編

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――で、怖くなった俺は古い知り合いのあいつ、のえるに相談してみたわけ。そしたら、大学一有名な二人組が解決してくれるだろうから話してみろって言われて、のえる経由で仕方なくあんたらのところにきたんだ。  これでわかったか、とでも言いたげに身長差のため少し上にある千穂の顔を見上げたが、長い前髪からのぞくその目はどこか攻撃的で、睨んでいるようにも見えた。 「何を盗られたんだ?」  暫しの沈黙をおいて、千穂がぽつりと言った。睨む目をやめず、智貴は言いにくそうに答えた。 「靴、ジャージ、タオル、ペン、ノート…、とか俺が使った物で、代えが利くようなものをいくつか。…その犯人らしき人からの手紙やなんかの話だと写真は何十枚も撮っているらしくて、今も見られてんじゃないかって気が気じゃない」  ふん、と鼻を鳴らして千穂は 「俺と話している時点で傍観者はたくさんいるけどな。またあいつらに相談している奴がいる、ってな。写真だって気付いてないだけで撮られてんじゃね、もうどうでもいいけど」  と吐き捨てた。  夕飯時のファミレス内は混み合っていてガヤガヤしているのに、その言葉は重く響いた。
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