壱・『失せ物』編

17/34
前へ
/58ページ
次へ
 千穂はそれに気付かないふりをして、もう湯気のたっていない冷たいハンバーグにフォークを刺して口に入れた。 「…良くないよ。俺は、少なくともそう思う」 「はいはい、ご苦労さん。今回もごめんな、…俺はどうでもいいって言ってるけど」  平人の指摘に、眉根を下げて千穂は謝った。  言い訳のような、どうでもいい、って言葉は聞こえないくらい小さかった。 「私物、ねぇ…。平人、お前も友人がどうのこうのって言ってなかったか?」  氷の溶けきった薄いウーロン茶が入ったグラスを傾けながら、千穂は聞いた。平人はポケットからスマホを取り出してスラスラ答えた。 「ああ。智貴くんと同じようにストーカー被害って言いきって良いかわからないけど、似たような被害にあっている人が今、大勢いるみたい。久しぶりに掲示板見たらコメントが溢れかえってる…さすが千穂だね」  俺のせいにするな、と平人を一瞥し、先を促す。 「しかも面白いことに、被害者がもれなくイケメン! なんだか羨ましいくらいだね」  語尾に音符が付きそうな勢いで平人は言うと、調べ途中のスマホの画面をみんなが見えるように持ちかえた。
/58ページ

最初のコメントを投稿しよう!

9人が本棚に入れています
本棚に追加