壱・『失せ物』編

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 数年前にできたらしい、まだ新しい校舎の床を平人は慎重に踏みしめる。  だが(平人が細工を施したため、誰も見ていない)監視カメラに向かって余裕そうにピースをしてみたり、千穂との通話をテレビ電話に変えてみたり、(変えた瞬間怒られたので、すぐに戻した)平人はこの状況に少々飽きてきたようだった。 『まだ着かないのか?』  退屈を隠さずに千穂が聞いた。平人は苦笑すると 「相手は自称、塔の上のお姫様だからね」 『…犯罪者が何を言うか。腐ってやがる』 「言い過ぎ。女の子は誰でもお姫様だよ。まあ、彼女に関しては愚かな人だと思うけどさ」  ため息と共に吐き出した千穂の言葉に対し、平人もいつものように切り返してくる。 少し引いたのか、一瞬の沈黙のあと 『誰でも…のえるも水江もか?』  不審がる千穂。次いでスピーカーから衣擦れの音が大きく聞こえる。電話の向こうで身震いでもしたのだろう。 「女性は敵に回さない方が良い、俺はそう思っているからね。それに女子はお姫様扱いが効果的だし」 『俺にはわからないな。さすがチャラ男様ってか』 「千穂が俺と同じことをしたらみんな怖がるからやめてもらいたいけどね」
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