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「あ~、もしもし? 聞こえてる? 寝ててもいいけどさ、電話だけは切らないでね?」
平人は扉に手をかけると、マイクへと囁くように言った。
向こうからは、面倒臭そうな返事が弱々しく聞こえた。
「いっちょ、かましてやりますか」
舌を出して、おどけた調子で微笑した。
千穂に対しての、ありがとう、の言葉は、小さすぎて届いたかどうか定かではなかった。
(盗みをはたらけば犯罪者、ね。カメラの操作と学校に無断侵入する俺も相当だわ)
そんなことを考えながら、音をたてずにドアを開け中に入る。
途端鼻につくのは、研究室独特の薬品の香りと強い香水の不快な匂い。
混ざりあうことでむしろ異臭となって、言いようのない吐き気が込み上げてくる。
それに加え、こんな時間には似合わない、少し楽しげな独り言も聞こえてきた。
平人は千穂との通話をスピーカーにすると、息を殺して耳をすませた。
「ふふ、○○くんのタオル…。新しいものをプレゼントしたら使ってくれていたわ。泣いている女の子にあげるなんて、紳士よね」
うふふ、と気味悪く笑いながら女子学生はタオルを撫でた。
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