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――ガタリ。
物が揺れる音がして、今までぴくりとも動かなかった千穂がおもむろに立ち上がった。
立ったまま彼はその艶やかな黒い目を細め一点を見つめて動かなくなる。
そして抑揚がなく感情のこもっていない冷たい声で
「お前、消えな」
と言った。
暫くしてその千穂の言葉に反応するかのように、
部屋の隅を漂っていた何かの黒い影がゆっくりと消えていったのを見た気がした。
だが、その頃にはもう彼は椅子に座り直していて、目を固く閉じていた。
その姿はどんな人にも畏怖の念を抱かせる妖艶な何かがあった。
けれども本人はそんなことを知る由もなく、
部屋内には寝息が響いているだけなのであった。
窓の外は相変わらず雨が強く降り、
時折白い光が空を泳いでいた。
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