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「…返せ、って言ってんの!」
ビンタ。
バシン、と重く響いたそれは、時間を止めた。
『あーあー』
ポケットにある通話状態のスマホから、息づかいのような、微(かす)かなため息が聞こえた。
「お前、死にたい? 殺されたい?」
無言で首を振り続ける少女。どうやら悪いことをした、とは思っているようだ。
「ごめ、なさ…」
「ん?」
笑顔。それはもう、満面の笑み。
「あ、…ああ、ご、め…すみませ……、許し…」
「ん? そう?」
じゃあさ、と楽しそうに平人は口を動かす。ぺろり、と赤い舌が妖艶に動き回った。
その続きを、震えながら待つ少女。
そして、呆れつつも状況を推測し、聞くことしかできない青年。
「…謝りにいこうよ、みんなに。今からでも遅くないんじゃないかな?」
今にも歌い出しそうな雰囲気の楽しそうな台詞に、混乱しながら少女はおそるおそる聞いた。
「遅く、ない…?」
「ええ。貴女にそのつもりがあるなら、その手伝いを致しますよ」
ここへきて、好青年の微笑が戻ってくる。
そのため、女子学生は気付かなかった。
言葉の裏の真意に。
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