壱・『失せ物』編

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 平人へ後光が差していると思ったら、彼の後ろ、つまり、廊下側の窓から光が差していた。  一方で、彼の視線の先の窓は、開いていた。端で止められている黄色いカーテンが小さく揺れた。 「どうしたらいいの?」  不安そうな女の声に、平人は顔がにやけるのを隠しもせずに 「俺に全部任せてよ」  と、どことなく軽いノリで言った。  何も疑わずに、女子学生はこくりとうなずいた。平人に対する恐怖が心を支配し、判断が鈍っているのかもしれなかった。 「それじゃあ、また。何かございましたら、潰し屋へどうぞ」  お決まりの文句を押し付けると、平人は匂いの戦場だったそこを後にした。  遅れて今回の犯人も、教室を出て行った。  時刻はそろそろ午前四時になる。平人の手の中のスマホからも、音が聞こえなくなっていた。 「後片付けねぇ、どうしよっか?」  私物がたくさん詰め込まれた空き教室を睨み付け、なんだか面倒臭そうだ。  通話中のスマホの『充電してください』の表示にすら、気だるげだった。 「もう、良いよね。あの子が悪いんだし、俺の好きにしちゃうからね」  返事のない独り言をこぼし、平人はもう一度入室した。
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