壱・『失せ物』編

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 翌日。  否、平人があの教室を片付けた五時間後、日が昇った後の、午前九時頃。  第三校舎、科学館の入口は、人でひしめきあっていた。 「平人、お前さ、あの後、何をした?」 「なにって、後片付けだよ。千穂、俺を疑うの?」 「…気色悪い。やめろ、こっち見んな」 「ひっどーい、平人、泣いちゃうっ!」  目元に手を持っていき、泣き真似をする。 千穂は完璧に無視をして、スタスタと歩いていく。 「千穂兄! かがっち先輩!」  手を振りながら走ってくるのは、のえるだ。 平人達をそう呼ぶのは、彼女一人しかいない。 「智くんが嬉しそうにしてたよ、この対応にはかなりドン引きしていたけどね」  追い付いた、と笑ってから平人と千穂を交互に見て言った。 「俺は知らない」 「みたいだね、智くんは『平人ってやばい奴だったのか』みたいなことを言ってたし」 「なにそれ? 今回の犯人である、あの子の方が危険でしょ?」 「知らね」 「あたしも知りませんね」 「良いしー、もう良いもんねー」  平人はむくれて、背中を丸めながら歩いていく。 その後ろを、千穂とのえるが笑いながらついていく。
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