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それから一時間程経って、平人が首を回しながら言った。
「なんだったの? 俺にお客さん?」
「…そうだ。解決してくれるまで、離れる気はないってさ」
苦虫を噛み潰したような顔で、千穂は答えた。
路地裏は、正午近い時間だというのに薄暗く、誰も通らなかった。
「困っちゃうな。俺、君とは違って話せないから」
頭を掻いて言った平人に、千穂は仏頂面のまま言う。
「だが、そいつは何も言わなかった。俺に対して、何も、な」
大通りの喧騒は、少し遠くから聞こえていた。
「えー、こんな所にいるからじゃないの? 後で俺の家に来てよ、千穂。一人は怖いよ」
「俺もお前の家に行ったら、(憑き物も入れて)四人だけどな」
「そういうのは聞きたくないってば!」
「事実だろ」
平人を見ずに千穂は言った。
そんな彼の視線の先を追って
「ねえ、千穂は嫌かい?」
独り言のように聞いた。
人の行き交う大通りを、影のある瞳に映していた。
「ああ、嫌だな。変な奴だけど、俺の友人だからな」
「え? それって…」
平人は目を見開いた。それから嬉しそうに、口もとを綻ばせた。
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