弐・『忘れ物』編

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 それから一時間程経って、平人が首を回しながら言った。 「なんだったの? 俺にお客さん?」 「…そうだ。解決してくれるまで、離れる気はないってさ」  苦虫を噛み潰したような顔で、千穂は答えた。  路地裏は、正午近い時間だというのに薄暗く、誰も通らなかった。 「困っちゃうな。俺、君とは違って話せないから」  頭を掻いて言った平人に、千穂は仏頂面のまま言う。 「だが、そいつは何も言わなかった。俺に対して、何も、な」  大通りの喧騒は、少し遠くから聞こえていた。 「えー、こんな所にいるからじゃないの? 後で俺の家に来てよ、千穂。一人は怖いよ」 「俺もお前の家に行ったら、(憑き物も入れて)四人だけどな」 「そういうのは聞きたくないってば!」 「事実だろ」  平人を見ずに千穂は言った。  そんな彼の視線の先を追って 「ねえ、千穂は嫌かい?」  独り言のように聞いた。  人の行き交う大通りを、影のある瞳に映していた。 「ああ、嫌だな。変な奴だけど、俺の友人だからな」 「え? それって…」  平人は目を見開いた。それから嬉しそうに、口もとを綻ばせた。
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