壱・『失せ物』編

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 木々の葉が様々に色づき、十月も半ばを過ぎる頃。  とある有名大学に通う千穂はその日もいつものように自宅であるアパートから学校への距離をのんびりと歩いていた。 その首にはヘッドホンをかけていて、どこか人を拒絶するような風貌だった。 「千穂、おっはよ~!」  そんな壁さえも知らないふりをして千穂へと勢いよく抱きついたのは、自称千穂の友人、利乃平人<かがのひらと>である。 千穂は抱きついてきた平人を即座に引き剥がし、また何もなかったかの如く歩き出した。  平人は、天パか癖毛かは知らないが縮れ毛で長ったらしく肩まで伸びた明るめの茶髪を後ろ側で一本に結び、髪と同色の切れ長の目は彼の性格を表すかのように少し垂れていた。 いわゆるイケメンと言われる類いの平人だが、残念なその性格のせいで友人である千穂からもあまり良くは思われていなかった。 だから平人は『自称』千穂の友人なのである。 「ねぇ、千穂ちゃ~ん!」  周りにも聞こえるような大きな声で言った平人に、千穂は振り返ることもせず殺気を放ちながら 「黙れ」  と一声。千穂は何よりもちゃん付けされることが大嫌いだったのだ。
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