開門と別れ

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 俺は右手を振りかぶる。怒りに任せて腕を振り下ろせばどうなるかは分かっている。それでも俺はその腕を振り下ろした。 「…………どうして?」  覚悟を決めて目を瞑っていたらしいチスイがゆっくりと目を開けて尋ねる。俺の手はチスイの首の僅か手前で止まっていた。怒りで抑え切れなくなっている魔力がチスイの首筋に一本の切り傷を作る。 「仁にはその資格があるよ。あのまま腕を振り抜いてくれたら」  チスイは死んでいた。そしてチスイはそれを受け入れていた。俺の腕を止めたのは、僅かに一つだけ残った怒り以外の感情だ。 「…………わるい」  俺はチスイの胸倉を解放する。崩れるようにソファに腰を落としたチスイに、俺は感じた。チスイでさえ、俺と戦った中で間違いなくダントツに強いチスイでさえ、俺は一瞬で殺せた。その唯一残った感情、「恐怖」が俺の右手を震わせていた。  俺は立ち尽くしたまま震えが止まらない右手を見下ろす。少し落ち着いた俺の頭にあったのは納得だった。天界の王があんな条件を出した事を納得出来てしまった。こんな力を持って帰るわけにはいかない。そんな事をしたら世界を壊してしまいかねない。俺自身がそう思ってしまった。 「チスイ。もう一度王に会えるように頼んでくれ」 「…………分かった」  チスイは何も言わずに俺の求めに答えて動いてくれた。
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