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「そ、その通りにしたら……、ぬ、濡れ縁のほうから、……き、鬼女{きじょ}が現れました……」
雪乃がよろよろと立ち上がり、御帳台に近付く。
「兄上様が作ってくださった、この人形代……これに触れるや、お、恐ろしい悲鳴をあげ、……逃げていきました……」
「……………」
晟雅の額に、冷や汗が浮かぶ。
雪乃が無事なのは大変喜ばしいことだが、侵入したのが鬼女とあっては捨て置けない。
当然のことだが宇山邸には結界を張っており、何かが越えようとしたならば、その感触は結界を張った本人である晟雅にも伝わる。
しかし、晟雅は鬼女の悲鳴に叩き起こされたのであって、結界を破られた気配は感じなかった。
現に、今こうしていても、結界を損ねられた痕跡は感じられない。
「雪乃。恐ろしい思いをしたばかりですまないが、鬼女の面相は見えたか?」
雪乃は大きく深呼吸し、次には真っすぐに晟雅を見上げた。
宇山一門の姫として、見鬼の才にも恵まれている彼女は、並みの女性{にょしょう}に比べて怪異も見慣れている。
陰陽師である兄が、鬼女の手がかりを欲していることも察したのだろう。
「双の眼が、赤々と輝いているのは見えました。ですがそれも、人形代に触れたあとには消えてしまい、定かではありません。背丈は、わたくしより高いようでしたけれど、抜きん出ている印象は受けませんでしたわ。御髪{おぐし}は乱れていましたが、角{つの}は生えていなかったように思います」
「……ふむ」
やはり、鬼女とは言っても、肉体までを変異させるほどの怨霊ではない。
むしろ、人間の肉体に鬼の魂を押し込めて、人間の肉体を鎧替わりに結界を越えたと考えるべきだろう。
「──あ!」雪乃が、はっと息を呑んで両手で口を覆う。
「大変です、兄上様! 冬霞様が!」
「え? 紫翳?」
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