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「ぎゃあああああっ!!」
凄まじい絶叫が夜気を劈{つんざ}いた。
晟雅は臥床に飛び起きて、辺りを見回す。
「な、なんだ、雪乃かっ!?」
袿を蹴飛ばして閨を飛び出す。
悲鳴を聞いた下男や下女たちが、蝋燭や棒切れなどを手に、同じく廊に飛び出してきていた。
雪乃の室の妻戸が、外れて廊に倒れている。
「雪乃! 無事か!?」
僅かに引っ掛かっている御簾を腕で払いのけて飛び込むと、雪乃は室の片隅で自らの体を抱きしめて震えていた。
御帳台に巡らせた几帳がずたずたに引き裂かれているのが、月明かりに照らされて浮かび上がっている。
「雪乃、一体これは……」
晟雅は途惑いながら雪乃の傍らに膝をつき、その細い肩に触れた。
びくっ、と身を撥ねた雪乃が、青ざめた顔で晟雅を振り仰ぐ。
かちかちと歯列{しれつ}を鳴らし、唇をわななかせている。
一瞬ぎくりとしたが、見た限りでは雪乃の寝衣は無理に乱された様子はない。
下女たちも、何があったのかと口々に雪乃に声をかけている。
ひとまず雪乃を下女に任せ、晟雅は御帳台に近づいた。
几帳は鋭利な何かで裂かれており、柱にも傷がついている。
「!……」
しかも、褥には腹の突き出た数匹の醜い雑鬼が、いずれも血を流して死んでいる。
枕辺には、晟雅が雪乃のために作った身代わりの人形代{ひとかたしろ}が、頭と胴体を引き離されて打ち捨てられていた。
人形代に触れようと手を伸ばすと、人形代はじゅっと白煙をたて、ぼろぼろに崩れてしまった。
人間{ひと}ではない。
「雪乃!」
晟雅は勢いよく雪乃を振り返った。
「鬼が出たな!?」
雪乃が呆然とした様子で頷く。
「わ、……」
「わ?」
雪乃が消え入りそうに声をあげる。
晟雅は雪乃の向かいに膝をついて、彼女の顔を見つめた。
「わたくしの御帳台に、雑鬼が上がってきて……身を隠し、声をたてるな、と……」
雪乃の声が震えている。
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