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その日、ひとりの妖{あやかし}が確信した。
何一つとして定まることのない人界で、あれは必ず禍{わざわい}となることを。
人と、妖。
決して交わることのない筈の彼らの間に生まれた児は、禍の嬰児と呼ばれた。
異端にして、稀代。
禍にして、陰{かげ}。
陽月{ようげつ}生まれの厄災の児に付けられた名は、紫翳{しえい}。
紫翳{むらさきのさしば}。
その意味するところを、誰も知らない。
そして、我が子を見限り、人界を去った妖のその後の行方を、誰も知らない。
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