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「また、そのようなことを。時枝{ときのえ}様に叱られますぞ」
「はっはっは。それはそれは怖いのぅ」
「本当にそう思っておいでで?──、っと」
なみなみと酒を注いだ風斎が、空いていた手で盃に色づく紅葉{もみじ}を浮かべた。
風情の増す盃に、ようやく麿眉から解放された晟雅が興味を示す。
「おぉ、紫翳。すっかり雅男{みやびおとこ}だな。よぉ、色男」
「なんだ、お主。もう酔うておるのか? 仕方ないのぅ」
風斎は晟雅の盃にも酒を注ぎ、紅葉を浮かべた。
盛夏は瞬く間に過ぎ去り、日々色づく木の葉が、都を美しく染め上げていた。
こうした季節の宴では、歌合わせを催すのが常である。
、、、、、、、、
そんな面倒なものには参加したくない紫翳は、いっそ酔ってしまおうかと考えてもいた。
その視界の端で、右丞相{うのしょうじょう}様が動いているのが見える。御簾の向こうの室の方様と、何やら話し込まれているご様子だ。
中宮・室の方様は、ことさら風雅を重んじられるお方だ。
これは早々に酔うておかねば、嫌な雲行きになりそうだ。
紫翳は一息に盃を呷{あお}った。
「冬霞殿」
(なにっ?)
ところが、盃を膳にも戻さぬうちから、いやに居丈高な調子で、右丞相様が紫翳を呼んだ。
たちまち、視線という視線が紫翳に集中する。
紫翳は仕方なく恭しい態度を装って応じた。
「お呼びでございますか。右丞相様」
「都一の陰陽師と呼び声高いそなたに、此度の宴に色を添えてもらおうと思うてな。室の方様が、そなたの式神術をご所望じゃ」
「そ──」「なりませぬ、室の方様」
紫翳が反論するより先に、時枝忠麿{ときのえの ただまろ}が口を開いた。
陰陽頭{おんみょうのかみ}は然るべき態度は崩さぬまま、しかし厳しく言う。
「式神とは、陰陽師の術を補佐する者たちにございますれば、余興のために召喚することは、あってはなりませぬ。それは、我ら陰陽師と式神との間で交わされた約定に叛くこととなるのです」
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