第1章

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 『手を伸ばして』  俺は雨が嫌いだ。雨の日になると必ず夢を見るから。小6の夏休み、記録的な雨が降ったあの日の夢を…  忘れたいのに忘れられない。不甲斐なくて情けなくて、悔やんでも悔やみきれない悲しい記憶。 「行くのかい?」  合羽を着る俺に婆ちゃんが声を掛けてきた。 「うん…。それじゃ、お休み」  不安そうな婆ちゃんを背に外に出ると、あの日のように降る雨の中へと足を進めた。 ××× 「サッチーン!」  自販機の前で傘から手を出しブンブン振ってるリョージ。腕がビシャビシャなのに満面の笑顔だ。 「リョージ、いつもゴメンな」 「気にしない気にしない! オイラとサッチンの仲じゃん! それより傘は?」 「この前の時にどっかで無くしたんだ。だから今日はコレ」  合羽を広げて苦笑いした。  俺は雨の日、いつも寝ずに夜遊びする。そうすれば夢を見ないで済む。そんな俺にリョージはいつも付き合ってくれた。 「ってか、マジでありがとな」 「も~気にしない! とりあえず飲みに行こ!」  リョージに弱々しい笑顔を返した。 「新しくできた居酒屋にしない? スッゴい可愛いコがいるんだ!」 「どんな娘?」 「タレ目でさ、鼻がペチャンコで口が常に開いてて…」 「えっ? それって…」 「パグにソックリなんだ! あーッ、犬飼いてー!」 「リョージ…」 ×× 「いらっしゃいませ~!」  店に入ると早速、リョージの言ってたパグにソックリな女(通称.パグ子)が笑顔で迎えてくれた。 「な、カワイイだろ?」 「もぅ! ヤダっお客さん! カワイイって…」 「このまま首輪つけて飼いたいなぁ! でもウチのマンション、ペット禁止だからね! 残念だよ!」 「(ピクッ)……はぁ!?」 「リョージ!! と…、とりあえずビール2つで!」  今にも唸り声をあげそうなパグ子から逃げるように席に座る。 「勘弁しろよマジで! ってか、いつからそんな犬好きになったんだ?」 「ん~、いつだろう? 小6からかな…」  ……小6か。忌まわしい8年前の記憶が蘇る。天然ボケのリョージだから悪気が無いのはわかるけど、少しは気を使って欲しかった。 「ハイ、ビールゥゥ…」  パグ子がジョッキを乱暴に置く。ビールが飛び散り、俺の頬についた。 「ちょッ…、何だよ…」
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