0人が本棚に入れています
本棚に追加
『手を伸ばして』
俺は雨が嫌いだ。雨の日になると必ず夢を見るから。小6の夏休み、記録的な雨が降ったあの日の夢を…
忘れたいのに忘れられない。不甲斐なくて情けなくて、悔やんでも悔やみきれない悲しい記憶。
「行くのかい?」
合羽を着る俺に婆ちゃんが声を掛けてきた。
「うん…。それじゃ、お休み」
不安そうな婆ちゃんを背に外に出ると、あの日のように降る雨の中へと足を進めた。
×××
「サッチーン!」
自販機の前で傘から手を出しブンブン振ってるリョージ。腕がビシャビシャなのに満面の笑顔だ。
「リョージ、いつもゴメンな」
「気にしない気にしない! オイラとサッチンの仲じゃん! それより傘は?」
「この前の時にどっかで無くしたんだ。だから今日はコレ」
合羽を広げて苦笑いした。
俺は雨の日、いつも寝ずに夜遊びする。そうすれば夢を見ないで済む。そんな俺にリョージはいつも付き合ってくれた。
「ってか、マジでありがとな」
「も~気にしない! とりあえず飲みに行こ!」
リョージに弱々しい笑顔を返した。
「新しくできた居酒屋にしない? スッゴい可愛いコがいるんだ!」
「どんな娘?」
「タレ目でさ、鼻がペチャンコで口が常に開いてて…」
「えっ? それって…」
「パグにソックリなんだ! あーッ、犬飼いてー!」
「リョージ…」
××
「いらっしゃいませ~!」
店に入ると早速、リョージの言ってたパグにソックリな女(通称.パグ子)が笑顔で迎えてくれた。
「な、カワイイだろ?」
「もぅ! ヤダっお客さん! カワイイって…」
「このまま首輪つけて飼いたいなぁ! でもウチのマンション、ペット禁止だからね! 残念だよ!」
「(ピクッ)……はぁ!?」
「リョージ!! と…、とりあえずビール2つで!」
今にも唸り声をあげそうなパグ子から逃げるように席に座る。
「勘弁しろよマジで! ってか、いつからそんな犬好きになったんだ?」
「ん~、いつだろう? 小6からかな…」
……小6か。忌まわしい8年前の記憶が蘇る。天然ボケのリョージだから悪気が無いのはわかるけど、少しは気を使って欲しかった。
「ハイ、ビールゥゥ…」
パグ子がジョッキを乱暴に置く。ビールが飛び散り、俺の頬についた。
「ちょッ…、何だよ…」
最初のコメントを投稿しよう!