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文句を言いたかったがパグ子は既に戻っていた。イラついてる俺は乾杯する前にビールを飲み干した。
「サッチン早いよ~!」
「リョージ、俺の名前はサトシだから! サッチンって呼ぶの止めろよ!」
「いまさらど~したんだよ? サッチンが嫌なのか? でもサッチンはサッチンだから…」
嫌だって言ってんだから呼ぶなよ!
「ねぇ、サッチン! あの人“メグ先生”に似てない?」
ドクンッと心臓が鳴る。俺が苦しんでる原因の、忘れたくても忘れられないその名前…
「……リョージッ!」
ジョッキを店内に響くくらい強く机に叩きつけた。
「オマエ、ウゼーんだよ! 20歳にもなってガキみたいな喋り方しやがってよ! 空気も読めねーしマジ消えろや!」
店内の客の視線が集中しているのがわかった。パグ子も裏から顔だけ出して見てる。
「サッチン…」
「その呼び方止めろって言ってんだろ! だから馬鹿は嫌いッ…」
「……馬鹿ってゆーなッ!」
リョージがビールをかけてきた。目に入って激痛が走り、俺はリョージを殴った。もう1発殴ろうとしたが、前が見ずらくて隣にブツかり机ごと倒れてしまった。
「いい加減にしろッ!」
隣の男の拳が顔面にヒット。鼻にくるツーンとした痛みで俺は…、キレたッ!
「……ブッ飛ばすぞコラッ!」
××
「2度とウチの店に来んじゃねぇッ! わかったかッ!」
ガタイのイイ店主によって雨が降り続く店の外に放り出された俺とリョージ。
「忘れモノよ!」
パグ子が俺に合羽を投げつけ、扉を閉めた。
「サッチン…」
返事をせず合羽を着ると、リョージがいる方とは反対方向に向かった。
×××
さっきより一層強くなる雨の中、俺はずっと後悔していた。リョージは大切な友人だ。それなのに絶対言ってはいけない事を言って傷つけたんだ。俺はまた、俺自身のせいで大切な人を失ったんだ…
突然、背後からクラクションが鳴る。いつの間にか道の真ん中を歩いていたようだ。俺は端に避けようと慌てて走った。
「イテッ……、うわ!」
視界が悪く、ガードレールに気づかず下半身をブツけ、そのまま前のめりに乗り越えてしまった。
「ゲッ! 川ッ…」
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