第1章

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 顔を真っ赤にする女性。熱でもあるのか? さっきから下ばかり見て……ッ!! 「あぁ゛ッ、スミマセンッ!」  俺は立ち上がると後退りしながら何度も頭を下げた。  気づかないうちに女性の手に俺の手を置いていたんだ。だからあれだけ顔を近づけても逃げずに……ってか、あんなに顔近づけて何やってんだ! 急にドキドキしてきたっ! とにかく冷静になろう! まずは記憶を遡って、とりあえず… 「誰だ、さっきドラえもんって叫んだヤツ」 「ハイ」 「何なんだよ“ど、ドラえもーん!”って? 俺のドコが猫型だ? ってか水死体はドザエモンだし。ってか俺、死んでないし」 「ゴメン、のび太君」 「まぁ、謝れば良い……ってか、ドラえもんから離れろ! オマエ、名前は?」 「サトシ」  えっ…、俺と同じ名前? まさか… 「……オマエは?」 「リョージだよ」  これは夢か? メグ先生似の女性と、サトシにリョージって小学生。そして森の中って言ったら、俺が夢で見る8年前の3人だけの野外活動と一緒だ… 「あのッ、今って平成何年ッ?」 「18年ですが…」  8年前じゃんッ! 俺、タイムスリップしてんじゃんッ! どうしよッ!? ど、ドラえもーんッ! 「病院に行きましょ? 頭を打ってたら大変ですし、アタシがついて行きますから」 「え゛ーッ! そしたら野外活動はどーなるんだよ!」 「嫌だよ! オイラずっと楽しみにしてたのに!」 「ゴメンね、2人とも…」  ……そうだったな。俺達はこの日を凄く楽しみにしてたんだ。親がいなくて夏休みに何の予定も無かった俺達の為にメグ先生が計画してくれたこの野外活動を…  両親は俺が5歳の時に離婚した。原因は母さんの浮気。俺と父さんを捨てて男と駆け落ちしたんだ。俺は婆ちゃんに預けられ、まもなくして父さんは自殺した。しばらくは母さんの事を恨んだよ。だけど寂しさの方が勝つんだよな…。無意識に母親を求めてしまうんだ。俺はどこかでメグ先生を母親と重ねて見ていたんだ。だから野外活動の話を聞いた時、嬉しくてしょうがなかったのを今でも覚えている。 「メグ先生は嘘つきだ! 楽しい思い出作ろうねって言ったじゃないか! 嘘つきッ!」
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