第1章

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 あの子と出逢ったのは数年前の夏の事だった。八月の花火大会の日――。 平日でさえ海外や県外の客で溢れかえる宮島本島は、その日は宮島口から出港するフェリーの中から人でごった返していた。 文化遺産の厳島神社の朱の大鳥居や観光名所の水族館もあるし、本場の焼きたて紅葉饅頭があるから無理も無い事だとは思うが、  何が花火大会だよ…。  ふてくされていたが、青い陸地のように続く瀬戸内海の海面と優しい波音を奏でる波、その下でまるで僕達を歓迎するように遊泳する魚の影を眺めている内、改めて見ると綺麗な海だと先程までふてくされるのをすっかり忘れていた。  本島の大鳥居は、干潮時には浜を歩けるのだが、現在は水傘が浜辺を隠してしまっている。 あの子とあそこで浜辺を歩いた記憶まですっぽりと覆い隠すように。
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