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「何か、探してるの?」
声をかけると、泣きそうな顔を向けられる。
「あっ、あのっ、財布っ。財布がなくて」
青年が「ない、ない」と呟きながら、もう一度、確認するかのようにジーンズのポケットやリュックの中を探った。
体を動かすたびに、柔らかそうな髪が揺れる。猫っぽい顔立ちで、もう美少年という年ではないけれども、整っていた。
「この辺で落としたの?」
私も、茂みに落ちていないか見渡す。
「違う……かも。俺、その、夕べ飲み会のあと、このベンチで寝ちゃったみたいで、今起きたんだけど、財布が……財布だけなくって」
蒼白な顔で、頭を押さえていた。
私は直ぐにピンときた。
「それ、もしかしたら盗まれたんじゃない?」
「……盗む?」
「酔っ払って寝てる間に、財布を抜き取られた可能性があるわね」
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