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「ヒトミさんかぁ」
青年が、やっと強張った顔を崩して笑顔を作った。
「素敵な名前ですね。あなたにぴったりだ」
そんな台詞ごまんと聞きなれたはずなのに、十近く若い青年に言われるのはくすぐったかった。それに、私の本当の名前は違う。三倉日登美は偽名なのだ。
「今日はありがとうございます。色々助かりました」
「別に、私は何も」
「俺、すっげーオドオドしちゃって、頭、真っ白になっちゃって……、カッコ悪いですよね。すげーダメで」
照れる顔がなんとも可愛らしい。警官に大学生だと言っていた。今年二十歳になるとは思えないほど童顔で、あまり背丈はないが運動神経は良さそうだ。
「口座の預金も盗まれるなんて、災難だったわね」
「うん。でも、おまわりさんが言う通り、俺が悪かったんだ。安易な暗証番号はいけないって言われても思いつかなくて。それに……心のどこかで、自分はそんな被害に会わないと思い込んでた」
「そうね。日本は平和だもの。大抵の場合はそうだわ」
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