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コーヒーカップを見詰める。黒い液体に浮かんだ顔は、どろどろとしていて美しさの欠片もなく、よどんで、滲んで、汚らしくて。
「東塚君は盗られたほうと盗んだほう、どちらが悪いと思う?」
「そりゃー、……盗んだほうかな」
「私はずっと、盗まれたほうが悪いと思ってた。でも時々考えるの。やっぱり盗んだほうが悪いに決まってるって。騙されたほうよりも、騙したほうが悪いに決まってるって」
青年が私の顔を見る。
私は薄く笑っていた。
こんなこと話しても何にもならないのに。
今ではもうどうでもいい事を、この青年に語っていた――。
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