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二月の朝、わたしは白い息を吐きながら、駅のホームに立っている。
高校に向かう電車を待つ間、いつものように鞄から香水のビンを取りだして、制服に少しだけ振りかける。
そしていつもと同じ電車が到着して、わたしはいつもと同じ、前から三つめの車両に乗った。
改札から階段を下りた場所に止まるこの車両は、とくに混雑するのだけれど、わたしは必ずここに乗る。
なぜなら、ふたつ先の駅で、この車両に「カレ」が乗ってくるからだ。
わたしの乗った電車が、ふたつ先の駅に滑りこむと、ホームに並んでいる人たちの中から、わたしはいち早くカレの姿を見つける。
わたしの高校とは、違う学校の制服を着たカレ。
話したこともなければ、名前すら知らない。
でもこの電車で初めて会ったときから、わたしはハンサムなカレの虜になった。
カレの駅に電車が止まって扉が開くと、わたしは乗り降りする人の流れを利用して、カレの隣に移動をする。
混みあった電車の中で、偶然を装って、わたしはカレの体にぴったりとくっつく。
電車が揺れるたび人ごみに押され、背の高いカレの背中や、運がいい日はカレの胸の中なんかに、わたしの体が押しつけられる。
そんな密やかな楽しみのために、わたしはいつも同じ電車に乗るのだ。
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