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―――誰のものだと思ってる。  思わず携帯を握りしめた。自分の目の前に朔くんがいない焦燥だけがむくむくと湧いて、苛立ちに変わっていった。  誰も、触るな。  思って、はっとした。  朔くんは誰のものでもない。まして俺と付き合っているわけではない。俺がそう思う義理は、どこにもない。 『てっきり、お前は朔のこと好きなんじゃねぇのかなって思ってたからよ、朔に付き合ってるやつがいるって知ってるのか、お節介ながら電話したっつーわけ』 「好っ……何言って」 『お前自覚ねぇのか、認めたくねぇのか、はっきりしろ』 「…………」  永末さんは昔からこういうことに鋭い。いや、俺が単純でわかりやすいだけなのか。 『もともと、朔には相手がいたってことかよ?』 「いや……聞いたことは、なかったです」 『ふぅん』  父親かもしれない疑惑と、父親ではなく、恋人かもしれない疑惑。二重の推測に頭が重くなる。そういえば朔くんからそういう話を聞いたことはなかったし、自分から言うような子でもなさそうだ。  けれど今はともかく、朔くんの安全がわかればいい。朔くんが恋人のところにいるにせよ、安全ならそれで良いのだ。 「ちなみにその二人、どっか行く様子でしたか」 『待ち合わせ自体はうちでしてて、バラバラに到着はしてたけどな。出るときは一緒だった』 「そう、ですか」  となると、一緒に行動をしているという可能性は高い。恋人なら安心だが、父親なら注意が必要だ。その動機や理由がわからない。  永末さんとの話はそこで打ち切り、マスターに仕入れた情報を伝えた。 『朔くんのお父さんは若い。最初は未婚の父で、十六歳になってから籍を入れていると調べがついている。私の見解としては……朔くんと一緒にいたのは、お父さんではないかと思う』 「そう、ですか」  違う意味でほっとするけれど、嫌な展開なのに変わりはない。 『朔くんが自らお父さんに会って、自ら着いて行ったことが気になるね。あと……待ち合わせを黒猫軒にしたこと。アンダンテは私たちの目があるから避けたにせよ、あそこには永末くんがいる。隠し通すつもりなら、違う店にする手もあったはずだ』  現に永末さんは、朔くんの姿を見て報告をしてくれた。 『偶然とは思えないんだよ。朔くんは僕たちに情報が行くよう、仕向けて黒猫軒を選んだのかもしれない』
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