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ようやく動揺したように目を揺らめかせた朔くんの腕を引き、テーブルに押さえつけた。相変わらず細い腕だった。片手で一つにまとめて、片手でシャツのボタンを外した。抵抗するように足をばたつかせられたけれど、足の間に入ってしまえば抵抗なんて無意味だった。
「…………!」
肋骨の浮いた細い身体が露わになる。
傷痕はなかった。以前みたような、古傷ばかりだった。けれどそこにあったのは、たくさんの赤い痕だった。
「これは、お父さんがしたの」
「…………」
「答えて」
声が固くなるのがわかる。俺が怒る義理はない。わかっている。でも感情が抑えられない。
朔くんがどういう理由でこういうことをされたのか、見当がつかない。同意にせよ、無理矢理にせよ、狂っている。
「答えて」
もう一度言っても、朔くんは首を動かさなかった。緊張したように顔を強張らせたまま、けれど表情は浮かべずに、俺をじっと見ていた。
黙秘を決め込んだ覚悟が見えた。それは誰を庇っているのだろうか。
腹が立つ。誰のものだと思っている。
自分のものにしたいという欲だけが、暴走するようだった。
「っ…………」
朔くんが息を詰めるのがわかる。俺は構わず朔くんの赤い痕に唇を寄せた。首の髪で隠れたところや、鎖骨、お腹、腕、至るところにそれはあった。もしかすると、下半身にもあるかもしれない。
ふつふつとした怒りや、悲しみに似たものだけが俺を動かしていた。
この小さな身体を抱き締めたとき、背中に回る小さな手があった。助けを乞う手があった。俺が一番傍にいて、どうにかしてやりたいと思っていた。
同情ではない、そこにあるのは確かな愛情だった。
裏切られた気持ちになる。それがどういう形だったとしても。
「…………」
朔くんは抵抗しなかった。何かを諦めているようだった。
どうしてそんなに、冷たい目をしているのだろう。
咄嗟に抱き締めた。朔くんはびくっ、と身体を強張らせた。折れそうなほど細かった。冷たいテーブルに倒したせいで冷えた身体を、温めるように摩った。
「ごめん、朔くん、ごめん」
朔くんに熱を移すように、俺の頭が冷えた。
服をきちんと着せ、また抱き締めた。朔くんは、腕を回してはくれなかった。
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