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けれど、夏はちょっと暑苦しいかもしれないな……。
――ざあぁん……
――ざあぁん……
(…………)
ミルク色した夢から、浮かび上がった。
ぼんやりとした頭の片隅で思った。
目が覚めるっていうのは、眠りの海から、波に乗って打ち上げられる事なんだ……。
――ざあぁん……
波の音。
耳に心地よかった。
眠気を誘うような音だけれど、眠くは無かった。眠り過ぎたような気がする。
――ざあぁん……
身体を起こそうと思って、精一杯の力を込めていると、ぺたぺたいう足音が聞こえてきた。
「おお、目が覚めていたのかい」
「あ……この前の……」
見覚えのあるお爺さんが、あたしの顔を見下ろしていた。
「ふむ……記憶ははっきりしているようだの。ようやく、峠は越したか……」
「あの……お爺さんは、誰?」
「私か? 私は、二宮。この二宮診療所の主だ」
「二宮……診療所?」
何であたし、そんな所に居るんだろう……。
「あ……そっか。風邪を引いたから……」
「いや、風邪では無いぞ」
「風邪じゃ無い?」
「まあ、今は体調も少し良くなって、そう感じられるのかもしれんが……お前さん、肺炎を患っていたのだ」
「肺炎……」
「ふむ……」
二宮さんは、深く頷いた。
「一週間ほどな、ずっと高熱に浮かされておった。……まあ、もう心配ないだろうが」
「一週間? それって……その間、あたし、ずっと眠ってたんですか?」
「うむ……眠っていたというか、苦しんでいたというか……」
「…………」
ちょっと、信じられなかった。一週間も眠っちゃうなんて……。
「ところで、ここ……どこですか?」
「だから、二宮診療所だ」
「あ、そうじゃなくて、場所の名前」
「ふむ、それはの……」
二宮さんが言った地名は、覚えがあるような無いような、そんな地名だった。
「どこ……? そこ」
「どこ……と言われてもな。地図の上に指を立てることなら出来るが」
「別に、地図なんて見たくない。そうじゃ無くて、だから……」
「うん?」
「あたしの住んでいる所から、どれくらい離れているの?」
そう。
そっちが問題だった。
「と……言われてもなあ。私は、お前さんの住所を知らない。そういう物を示す何物も持っていなかったからの」
「…………」
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