第1章

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 そう言って、苦笑いを浮かべた。  「とある女の子がな……お前さんを、この診療所に担ぎ込んできたのだ」  「女の子って、誰?」  「素性は、私も知らん」  「……じゃ、その子にお礼を言わないとね」  「そうだな」  「今、どこに居るの? その、女の子は」  「さあて……?」  二宮さんは首を傾げた。  「まあ、また、ひょっこり姿を見せることもあるんじゃないかの……」  「ふうん……じゃ、いいや。そしたらさ、あたしは何で、浜辺なんかに倒れていたのかな?」  「そこまでは私も知らんな……。まあ、溺れたんじゃないんかの? 海水浴の季節だから」  「溺れた……か」  何だか、間抜けな話に思えた。もっと、ドラマチックな方が、あたしはいい。  「溺れたんじゃ無いよ、きっと」  あたしはふてくされたような気分でそう言った。急にあたし自身が、スクリーンから、こちらの世界に飛び出してきたように思えた。  「まあ、それもそのうち思い出すだろう」  言いながら、二宮さんは、あたしの腕から点滴の針を抜いた。  「あ、そうそう。この手首って何なんです?」  あたしは、苦労して布団から手を出した。視線をそちらに向けると、包帯の白が目に映る。  「痛むかの?」  「ん……少し」  じっとしてるとそうでも無いけれど、動かすと鈍い痛みが走った。  「でも別に、我慢できない程じゃ無いよ」  「ま、そうだろうの。骨が折れている訳じゃ無い。まあ、酷い捻挫ではあったが」  「捻挫?」  あたしはもう一度、手首に目を遣った。  「それって、その……溺れた時に?」  「さて……? そこまでは分からない。お前さんをざっと検診した時に見つけたのだ。溺れる前からかもしれん」  「ふうん……ま、いいか」  手首を切断したとかだったら大ショックだったけど、捻挫ならどうってこと無い。  「ふむ……まあ、あと数日もすれば、痛みも引くだろう」  ――ぽんぽん  二宮さんの手が、布団を鳴らした。  「身体が復調するには、まだもうしばらくかかる。それまで、ゆっくり養正なさい。いいね」  そう言って、二宮さんはかっと微笑んだ。優しい笑顔で、何だかあたしは嬉しくなった。  「ありがとう……」  「そうそう、目が覚めるたり、何か用がある時は、枕元のボタンを押すようにな。それじゃ」  
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