第1章

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 カーテンの向こうから声が聞こえてきて、ぺたぺたと、スリッパの足音が遠ざかっていく。  あたしは寝返りを打つと、目をつむった。眠くは無いけど、寝よう、そう思った。  学校が終わり、僕たちは宮根村に帰っていた。  「5限まであると、疲れるな……」  「ええ」  夏だと言うのに、辺りは既に薄暗い。日中の暑さはその勢いを弱めていた。ふたり寄り添って歩いても、何とか暑くない。  「お腹空いたな……」  何気なく呟くと、澄子は嬉しそうにこちらに振り返った。  「なら、私が作るわ」  「何を?」  「聡人は何が食べたいの?」  「う~ん……」  取り立てて、食べたいものも無かった。  「別に……適当でいいよ。澄子の好きなもので……」  「え……」  途端に困惑の色が瞳に浮かんだ。  「私は……聡人の食べたいものを作りたいから……」  「…………」  僕は心中でため息をつくと、言った。  「じゃ、カレーだ。カレーを食べたい」  「ええ」  「……ああ、そうだ、美木に電話しないと」  澄子が夕飯を作ってくれるなら、美木に連絡をいれないといけない。  携帯を取り出すと、美木のそれに電話を掛けた。  「…………」  しばらく待つと、留守電に切り替わった。夕飯の用意をしなくていい旨を伝え、電話を切る。  「じゃ、買い物に行くか」  「ええ」  商店で買い物を済ませ、外に出ると、もう真っ暗になっていた。  「なあ、澄子……」  「何?」  「無理して、5限までつき合ってくれなくてもいいよ。疲れるんじゃないか?」  「あ……」  澄子は顔を伏せた。闇の中、白い横顔がぼんやりと浮かび上がる。  「別に、無理してなんか……」  「でも、授業は二限までで終わりだろう」  澄子と僕は、同じ学科で同じ学年なので、必修授業は重なる。月曜は、1、2限が必修だった。  「五限は、あれは、俺が特に、興味を持っているからで……澄子は別に、そんな事は無いんだろう?」  「そうだけど……でも……」  澄子はこちらに顔を向けた。既に、悲壮とも言うべき表情が、そこには浮かんでいる。  「私は……なるべく一緒に居たいから……」  「……居るじゃないか。毎日一緒に」  「毎日一緒に居るのは、美木ちゃんだと思う……」  「…………」  「あ、ご、ごめんなさい、妙なこと言っちゃって……。兄妹なんだもの、当たり前よね」
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