第1章

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 養子の意志に諾々と従っている僕が、どうして澄子の主体性の無さを糾弾できるだろうか。  ふたりとも何となく黙ってしまい、僕たちは黙々と食事を続けた。スプーンの皿に当たる音だけが、ただ、部屋を飛び交った。  僕はふと、自分の手元に目を遣った。  左手の薬指に指輪が嵌められている。澄子から、誕生日にプレゼンとされたものだった。別に、その指に嵌めるよう言われた訳じゃ無い。が、澄子はそれを望むだろうと思った。そして事実、僕の左手を見たとき、澄子は零れるような笑みを浮かべた。正直に言って、僕はずっと澄子の近くに居たいと思っている。しかし――。澄子は、一生を僕の後ろを歩くことに費やしてしまって、それでいいのだろうか?  ………………。  …………。  ……。  「ごめん……」  そう呟き、澄子に背中を向けた。  「え……?」  困惑の声が、僕に投げかけられる。  食事のあと。  澄子は、いつものように僕に抱きついてきた。しかし……。いつもとは違い、なぜか僕は彼女を抱きしめ返す気分にならなかったのだ。  「ごめん……」  再び呟く。  澄子がベッドに座り直す音が聞こえた。  「どう……したの?」  「自分でも分からないんだ……」  「…………」  「…………」  「その……私のせい?」  気遣わしげな声だった。  「そんなんじゃない」  僕はかぶりを振った。  「自分でも……分からないんだよ」  僕は同じ言葉を繰り返した。その声は上擦っていた。こんな事は初めてだった。  「たぶん……疲れてるんだと思う」  別に何に疲れている訳でも無いが、取り敢えずはそう言った。  「うん……」  「ごめん……素っ気無い態度をとってしまって」  「あんまり、気にしないで……」  「もう大丈夫だから……」  「…………」  何も言わずに、僕を再び抱きしめてくれる澄子。先ほど渦巻いていたようね感情は、すでに霧散して、消え去っていた。いや、それどころか、僕は優しく抱きしめてくれる彼女を、愛おしとさえ思った。  僕は澄子の手を、そっと握ったのだった。  白。  白い色。  何の色だろう?  その白に、違う色が混じっている。  水の中に絵の具を垂らしたように、その色が、ぐるぐると渦巻いている。  渦巻き、渦巻いて――。  「…………」  目が覚めると、夜になっていた。  (何時だろう……)
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