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「どうしてって……今日はここに、一緒に来たでしょう?」
「そうだっけ……?」
「……それより、どうかしたの? 顔色が悪いわ……」
「少し……頭が痛くて……」
「え……?」
澄子は酷く不安げな顔をした。
「そんな心配そうな顔をしなくても、平気だよ……」
「…………」
「澄子は相変わらずだな……本当に、心配性だ」
「だって……」
腕を握る力が、少し強まった。澄子はぴったりと寄り添い、まるで病人を扱うようだった。
「聡人の事なら、私は、いつも、何でも、気に掛かるの……」
外の陽光が、ことさらに眩しく感じられた。そのとき僕はふと、自分が違和感を覚えている事に気が付いた。
「……澄子?」
「何……?」
澄子の顔が目の前にあった。それを、微細に見つめる。整った顔立ちだった。切れ長の二重瞼、深い色をたたえた瞳、すっきりと整った鼻梁、控えめな唇……。この暑さにも汗ひとつ浮かべず、その白い肌は涼しげだった。
「どうしたの?」
微かな笑みを浮かべた。見慣れた笑顔。いつもの澄子。けれど……。どこか違うような気がした。違和感――澄子は、いつもの澄子じゃ無い。
「聡人……? どうしたの? 頭が痛いの?」
さっきの溝口さんのように、目を覗き込んできた。澄子の感情は、瞳に表れる。心配と戸惑いが、そこには浮かんでいた。
僕は、澄子の髪に手を伸ばした。
「あ……」
いつもの、さらさらとした感触。すくい上げると、水のように手の平からこぼれ落ちる。鼻腔いっぱいに空気を吸い込んだ。いつもの澄子の匂い。ここに居るのは、僕の知っている澄子だった。当たり前だ。
「……どうしたの?」
幾分羞恥を滲ませて、僕の顔を見上げた。
「いや……すまない。ちょっと、頭がぼうっとしていて……」
ゆっくりとかぶりを振る。鉛のように重たい痛みは、依然として居座り続けている。
「…………」
心配げな様子で、僕をじっと見つめてくる。その瞳はこう語りかけている。
――何にをして欲しいの? 私は、どうしたらいいの?
「……平気だ。……さ、帰ろう」
頭の痛みに顔をしかめつつ、僕は先に立って歩き出す。こんな時ですら、僕の方から行動を起こさなければならない……。
「お家に頭痛薬はある?」
けれど、寄り添ってくれる澄子が、その温かみが、僕にはありがたかった。
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