第1章

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 身体を澄子にもたせるようにして、僕たちは、家へと歩いていった。  ――ざあぁん……  ――ざあぁん……  ――ざあぁん……  音。心地良い音。  それに導かれ、あたしの身体が浮かび上がる。  黒っぽい靄が、頭上に漂っていた。それはまるで、水面みたいだった。  ゆらゆら、ゆらゆら。  あたしの身体も多分、海草みたいに揺れている。四肢を伸ばして、ゆっくりと流れている。  揺れが段々と収まって、黒っぽさが少しずつ晴れていった。そうしたら、空気と同じに透明になった。そこに表れたのは、見慣れない天井だった。  (ここ……どこ……?)  自分が、ベッドみたいなものに仰向けになっているのが分かった。  見慣れない天上……。どこか違う枕の感触……。鼻に漂う、これは……消毒薬の匂い。ここは、いったいどこなの?  身体を起こそうと思ったけれど、全身が瞬間接着剤で張り付けられているみたいな感じがした。  あたしはかない焦った。だって、これって金縛り?それに……。喉が痛かった。空気にトゲでも生えている?  身体の節々が痛かった。小さな兵隊が小さな槍で、全身を内側から突っつき回している。  寒気がした。  決して溶けない氷を抱いたまま、湯船に入っているような、妙な感覚。  金縛りじゃなかった。あたしはきっと、酷い風邪をひいているんだ。頭はぼんやり、身体もすごくだるい……。また、黒い霧が、夏の入道雲みたいに湧き上がってきた。  ――シャッ  音がした。カーテンの音。  「誰……?」  闇の中に、黒い影がぼんやりと浮かび上がっている。  「何だ……起きておったのかね」  人影が遠ざかって、パチリと音がした。  やっとのことで、あたしは自分がどこに居るのかが分かった。あたしが居るのは、病院か何かだ。  カーテンで仕切られた一角。ベッドの上。さっきの人が戻ってきて、もう影じゃ無い姿を、あたしの前に見せた。  「誰……?」  「ふむ……それは、また後だの」  「え……?」  「今な、眠りなさい。お前さん、まだ、本調子じゃない。喋るのだって、頭を使うのだって、きついはずだ」  「…………」  布団から、あたしの腕が取り出されるのが分かった。その瞬間、手首に痛みが走った。  「痛……!」  「おお、すまん」  「何……?」  「手首を怪我しておってな。まあ、それも後だ」
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