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身体を澄子にもたせるようにして、僕たちは、家へと歩いていった。
――ざあぁん……
――ざあぁん……
――ざあぁん……
音。心地良い音。
それに導かれ、あたしの身体が浮かび上がる。
黒っぽい靄が、頭上に漂っていた。それはまるで、水面みたいだった。
ゆらゆら、ゆらゆら。
あたしの身体も多分、海草みたいに揺れている。四肢を伸ばして、ゆっくりと流れている。
揺れが段々と収まって、黒っぽさが少しずつ晴れていった。そうしたら、空気と同じに透明になった。そこに表れたのは、見慣れない天井だった。
(ここ……どこ……?)
自分が、ベッドみたいなものに仰向けになっているのが分かった。
見慣れない天上……。どこか違う枕の感触……。鼻に漂う、これは……消毒薬の匂い。ここは、いったいどこなの?
身体を起こそうと思ったけれど、全身が瞬間接着剤で張り付けられているみたいな感じがした。
あたしはかない焦った。だって、これって金縛り?それに……。喉が痛かった。空気にトゲでも生えている?
身体の節々が痛かった。小さな兵隊が小さな槍で、全身を内側から突っつき回している。
寒気がした。
決して溶けない氷を抱いたまま、湯船に入っているような、妙な感覚。
金縛りじゃなかった。あたしはきっと、酷い風邪をひいているんだ。頭はぼんやり、身体もすごくだるい……。また、黒い霧が、夏の入道雲みたいに湧き上がってきた。
――シャッ
音がした。カーテンの音。
「誰……?」
闇の中に、黒い影がぼんやりと浮かび上がっている。
「何だ……起きておったのかね」
人影が遠ざかって、パチリと音がした。
やっとのことで、あたしは自分がどこに居るのかが分かった。あたしが居るのは、病院か何かだ。
カーテンで仕切られた一角。ベッドの上。さっきの人が戻ってきて、もう影じゃ無い姿を、あたしの前に見せた。
「誰……?」
「ふむ……それは、また後だの」
「え……?」
「今な、眠りなさい。お前さん、まだ、本調子じゃない。喋るのだって、頭を使うのだって、きついはずだ」
「…………」
布団から、あたしの腕が取り出されるのが分かった。その瞬間、手首に痛みが走った。
「痛……!」
「おお、すまん」
「何……?」
「手首を怪我しておってな。まあ、それも後だ」
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