幻種というものと普通でないもの

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 沢村には聞き慣れない単語を雄介は「わかった」と席を立つ。 「順序が変わった。浩君、君はここで賢人といること。終わったら連絡をよこす」  そう言って雄介は連絡に来た構成員と共に部屋を出ていった。  ばたんとドアが閉まり、事務所には沢村と賢人の二人だけになった。 「……行かなくてよかったの?」  沢村の言葉に賢人は向かいのソファに座りながら。 「俺はきょくちょ……父さんに止められてる」 「なんで?」 「継がせたくないんだってさ、月原組も魔術も」  こともなく言っているが納得はしていない様子で。 「父さんが言うにはさ、『お前は組をまとめることも魔術の扱いも悪くはない。だからこそ跡を継がせられない』ってさ」  どーいうことだよと賢人は口を尖らす。これが素質がないから継がせられないだったらまだ納得ができるのに。  ぶーぶー文句を言っている賢人に沢村は苦笑し疑問に思っていたことをたずねる。 「市原はさ、幻種のこと知ってたの?」  沢村のその言葉に月原は「んー?」と間を取るように声を出した。  月原、ではなく市原と呼んだのは月原組の若頭でも魔術協会の月原でもなく友人の『市原賢人』だからだ。 「幻種の存在は子供の頃からねー。乾が幻種、までは気づいてたけどまさか未登録の極東人狼種だったとはねー」 「……幽霊とかって、いる?」 「いるね。地縛霊、浮遊霊、悪霊や怨霊。それから守護霊か。知ってる?霊って広義的には精霊の一種で……」 「あのとき」  月原の言葉を遮り、沢村は続ける。 「あの日、あの場所で、霊は、いた?」  沢村の声が震える。沢村が何を聞きたいのかはわかる。  沢村は、交通事故で母親を亡くしていた。  葬儀のあった当時、沢村は兄と共に泣きじゃくり、参列していた賢人ももらい泣きをしていた。  沢村は葬儀の当日に母親の霊がいたのかと聞いている。だが、それは。 「……悪い、わからない」  伏せていた沢村は顔をあげ市原を見る。 「俺は、『見えてない』。父さんなら知っていると思うけど、たぶん答えてはくれないと思う」 「そっか……」  僕が普通の人間だからか。そう呟いた沢村は、悲しそうに呟いた。 「ほんとはね」 背もたれに体重をかけながら、市原は続ける。 「幻種のことは話すべき事じゃないんだ。一般人にはなるべく幻種のことを触れないようにさせるべきなんだよね」  たとえ巻き込まれた形でも事情聴取や事後処理が終わったら記憶改ざんや封印をする。  幻種の存在は、隠すべき物事。それを父親自らがまげて沢村に話したことが市原には理解できなかった。 「だから何か理由があると思うんだよねー、沢村じゃないとダメな理由が」 「なんだろう?」  さぁ?と市原も首をかしげた。  ややあって、事務所のドアがふたたび開き、先ほどと同じ構成員が入ってきた。 「お待たせしました。若、沢村の坊ちゃん、局長が呼んでいます」
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