幻種というものと普通でないもの

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 構成員に案内され向かったのは敷地の外れにたたずむ蔵だった。  蔵に入ると雄介と両手足を鎖で縛られ身動きが取れなくなっている人狼が唸りながら雄介を睨んでいた。 「な、何があったんですか!?」 「最初の拘束を解いたら急に襲ってきたので慌てて二段階目の拘束をしたまでさ。……それより」  慌てる沢村にこともなく語る雄介はちらりと賢人を見、すぐに人狼へと視線を向ける。 「君が昨日目撃した人狼は、こいつか?」  言われ人狼を観察する沢村。  全身を茶色の獣毛で覆い、頭の上にあるとがった耳、伸びた口と牙。急いで追いかけたのだろうか、着ていた月原高校の制服はそこかしこが破れている。腰から生えている尻尾は威嚇のつもりなのかまっすぐに伸びている。  茶色の体毛で後頭部から伸ばしている一房の髪がもう一つの尾をイメージされる。  拘束を解くためだろう、ときたま紫電を全身から走らせているその姿はたしかに昨日、運動公園で見かけた人狼だった。 「……はい、間違いありません」  沢村の確信にうなずく雄介は人狼に顔を向け。 「さて、君も事情を話してもらえないかな?乾鉄浪君」  それには答えずずっと雄介に向かって唸り続ける人狼。はぁ、とため息をついた雄介は人狼に説明を行なうことにした。 「いいかい?君は幻種の亜人族でその中の獣人種の一体だ。それは自覚しているね」  人狼の唸りが止まった。おそらく肯定だろう。 「そして君は日本ではもう絶滅した種族、極東人狼種の最後の一人だ。君は……」 「最後じゃない」  雄介の言葉を遮り否定する人狼。 「オレで最後じゃない、……親父が生きてる」  異形の姿のわりにははっきりと聞こえる声で人狼、乾がそう言った。 「……父親も極東人狼種だと、そう言いたいのか」  乾の言葉に雄介は腕を組みながら尋ねる。  乾はそれに「ああ」とうなずき、拘束をどうにかほどこうと腕を動かしながら続けて言った。 「極東なんとかってのは、わかんねぇけど……!オレのこの力は親父譲りだとっ、聞いた。……くそっいい加減ほどきやがれっ!」 「聞いたとは、誰からだ?」  尋ねた雄介に乾は腕を動かすのをやめ、睨みつける。 「……聞いてどうする、オレみたいに縛りつけるのか!」 「状況によるな。無抵抗の相手を拘束する趣味はないが」 「勝手に縛ったり手荒な事はしないんだな!」  約束しようという雄介の言葉に乾は目をそらしたあとしばらく沈黙し、口を開いた。 「……オレの、おふくろだ」
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