現実なんてこんなもの

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「……っていう感じ、おかげで本をもう一度買いに行かないといけないのは痛いね」  翌日、学校にて。友人である市原賢人(いちはら・けんと)に昨日の放課後に起こったことを話す沢村。 「あららー、それはご愁傷様」  両手を合わせて軽く言う市原は男子にしては髪をややのばした、軽い調子の雰囲気をもつ生徒だ。 「あ、そうだ」  真面目少年である沢村と対照的な市原はふと尋ねた。 「その昨日見た不良ってさ、どんなやつ?」 「どんなって?」 「いやさ、どんな不良が分かれば取り返せられない?」 「できる、かもしれないけど……」  市原の提案はうれしい。うれしいが、正直なところもう一度会いたいとは思えない。  そんな沢村の感情を読んだのか。 「沢村ってさ、空手やってるじゃん?無防備なところをねらってこう正拳突きとか、かかと落としってかませばいけそうじゃない?」 「やだよ、そんな暴力的手段」  突きのジェスチャーを交えた市原の言葉に首を振る。 「そういう風に習ってないし、それに僕は」 「自衛のために通っているのであって現実では使いたくない、だろ?」  遮った市原の言葉にうなずく沢村。  そんな沢村を見て市原は「ま、お前ならそう言うよな」とたいして残念におもわず言い。 「でも、俺は沢村が会った不良が誰か知りたい!」  だから教えて、と最初とは別の意味で沢村に手を合わせた市原にため息をひとつ。  市原は、不良が好きだ。不良オタクといってもいい。もともと不良漫画好きだが現実の不良も好きになっている。  以前、どうして不良が好きなのか聞いたことがある。市原はこう答えた。  漫画とは違って現実で生きてる不良って何かしら理由とか原因があるんだよ、『普通』にも見える理由がね。  そのとき市原は特に『普通』という部分を強調して話してくれた。どうしてそこを強調するのかもついでに聞いた。  だって、そこが重要だからね。  そこだけ、なぜかはぐらかされた。 「ほんと、どうしてそこまで不良が気になるのかわからないよ」 「まー細かいところはいーじゃーん。ほら、減るもんじゃないんだし話した話した」  実際、本が一冊減っているのだがそれを言っても仕方がない。  自分が知りたいものはなんとかして聞き出す。  それが市原の性格だ。知っている。自分も似たようなスタンスだからだ。だから市原と友人でいられたのだろう。  小学校からの幼馴染。同じ高校で同じクラスに入った辺りからは腐れ縁とも思う。  わくわくした様子の市原にもう一度ため息をつき、沢村は昨日出会った不良について話し始めた。
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