現実なんてこんなもの

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 放課後。昨日取られた物と同じ本を本屋で購入した沢村。同じ失敗はしないようレジ袋に入れ、しかし内心は浮き足立って自宅へと向かっている。  その途中で月原運動公園の近くを通り、ふと足を止めた。 「あれって……」  運動公園に入っていく男子生徒らしき姿。後ろ髪を一本に束ねたその姿は今朝学校で市原に話した乾鉄浪だった。 (関わらないほうがいい、よね……)  内心そう考えたが、昨日ぶつかったときにちゃんと謝っていない気がする。  相手は不良。こちらが誠意をもってもまともに受け止めてはくれないだろう。また難癖をつけられるかもしれない。  そうは思うが、謝っていないかもしれないと気になってしまい数秒考え込む。 「……あー、行こう!いざとなったら逃げればいいし」  そう結論をだし、乾の後を追うように月原運動公園に入っていった。  変なところを気にする癖も直したほうがいい。そう思った沢村は同時に後悔は先に立たないという言葉も思い出した。  後を追うように向かった沢村は乾が座り込んでいるベンチの少し遠くにぽつんとたたずんでいた。  この後はどうしようか。近くまで歩いて、「あ、昨日の!」と声をかければいいのか。それかただ単にすれ違って向こうから声をかけるのを待った方がいいのか。  そんなことを考えこんでいるのに気づいていないだろう乾はうなだれているように見える。 (具合でも悪いのかな……?)  それだったらちゃんと声をかけた方がいいのかも。そう考えを改めていると乾は顔を上げおもむろに学生服のボタンをはずし始めた。 「え?」  突然の行動に思わず声をだし、ハッとしてつい近くの茂みに身を潜めてしまう。 (あいつ、何やってるの?ま、まさか……変態?)  もしそうだったら別の意味で危ない気がする。いつでも逃げられる用意はしようと身構えていると。  乾は脱いだシャツをベンチにばさりと置くと軽く首を動かし、右腕を前につきだした。  バチリとなにか電気が通ったような音がした。 (なに、あれ……)  乾の伸ばした腕は毛むくじゃらに、指先は尖り人としての腕ではなくなっていた。  その異形と化した腕の造形は漫画やゲームで見たものによく似ていた。  腕だけではない。紫電が上半身をまとったと思えば乾の体はふくれ上がり、腕と同じように毛むくじゃらの体になった。  三角にとがった耳、伸びた口、腰から生える人にはない尻尾。  人の姿をした獣。獣人と呼ばれるモノで一番有名なそれは。 (狼男……!)  現実離れしたその光景に沢村は自分でも気づかないまま後ずさりをし、偶然にも小枝を踏み抜いてしまった。 「……っ!誰だッ!?」 (まずい……!)  見つかったらなにが起こるのか。それがわからないほど馬鹿ではない。沢村は息を止め、じっと身をひそめる。  心臓の音が他人に聞こえるのではないかと思うくらいに大きく聞こえる。  乾だった獣が一歩二歩と前に進む。警戒するように顔を左右に向ける。 「……気のせい、か」  ぽつりと呟いたのを聞いたのかどうか。  獣が注意をそらしたすきに沢村は運動公園から抜け出していた。  どこをどう通って行ったのか。何も覚えてないまま家につき、そして購入した本がないことに気づくも探しに行く気ももう一度買いに行く気も起こらないまま眠れぬ夜を過ごした。
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