現実なんてこんなもの

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 学校が休校となり、それぞれ帰り始める生徒たち。沢村も家に連絡を入れた市原に連れていかれる形で下校する。  下校中、何とも言えない空気感になりなにか話したほうがいいのかもと口に出そうとするも何を言えばいいのかわからず、それでも市原を呼ぶも「今は無理」と話が続かない。  ふと前を歩いていた市原が止まった。遅れて立ち止まる沢村は電信柱にもたれてる男子生徒を見ておもわず声をだした。 「乾、鉄浪……」  前にでようとした沢村を止めるように腕を横に出した市原は乾に向かってこう言い放った。 「なんでわかった、沢村の匂いでも辿った?」  市原の言った言葉を聞いて沢村は乾が手に持っている本をみた。あれは、一昨日ぶつかってしまったときに迷惑料として持っていかれた本だ。 「ああ」  電信柱から離れ、市原達に近づく乾。 「へー、さっすが名前が『いぬ』いなだけあるね。鼻はいいんだ」  市原のその物言いに思わず口が出る。 「市原、そんな言い方……」 「沢村は黙って」  きつく言われ二の句が続かなくなる沢村。  言われた乾も歩みを止め市原をにらみ。 「お前、何を言いたい……?」 「べっつにー?ただ、こうまっすぐ待ち伏せるってなんでかなーって?」  市原のその言い方は相手を小馬鹿にしていて。沢村は乾を見続ける。  気のせいか動物の唸り声のようなものが沢村の耳に入る。慌てて左右を見渡しても野良の動物は見かけなかった。 「沢村、合図したら走るよ」  市原の声に、「え?」と視線を市原に戻す。 「悪いね、乾。今はちょーっとばかり急いでるんだ。本の返却はまた今度!」  ズボンのポケットから何かを取り出し地面に思い切り叩きつける。  ポンポンと間の抜けた音がひびきわたり丸い何かが現れ、乾が身構える。  今だと市原の合図に走り出す。  警戒し動けなかった乾の横を走り抜けながら沢村は市原に尋ねる。 「今のは!?」 「ちょっとした護身用のアイテム!それも家来たら話す!」  とにかく今は走って乾から離れる、と足を止めずに話す市原。  沢村もわかったととりあえず返事し、待てという乾の声から逃げるように二人は駆け出した。  駆け出して五分くらいだろうか。息が上がりながらも市原の家まで向かえた二人。  家の門をくぐりぬけ息を整える市原。沢村も大きく深呼吸をし心臓を落ち着ける。 「市原、いい加減に説明してよ。いったい何なの。なんで乾から逃げる必要があったの、今朝のニュースと何か関係があるの!?」 「それは……」 「それは私から話そう」  市原の声を遮るように別の声が割り込んできた。  声をした方へ顔を向けると、二人を迎えるように男性が歩いてきた。  市原賢人の父親で、この家の主であり。  自分たちが暮らしている市と同じ名前の極道組織、『月原組』の組長。 「おじさん……」  月原雄介(つきはら・ゆうすけ)が出迎えた。
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