幻種というものと普通でないもの

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 月原雄介が聞いた。  ヤクザという、およそそれとは縁遠い世界の人間が『幻想の類の生き物を信じているか』と。  それは冗談のように聞こえて。だけどその口調やまわりの空気が、場を和ますための冗談やジョークではないと物語っていた。 「……現実にいるかという意味だったら、いないと思います」  少し悩んでそう答える沢村。 「僕はよく本を読むしゲームもします。剣と魔法が当たり前の世界でモンスターを倒してレベルが上がって、最終的には強大なボスを倒す。そんな作品が僕は特に好きです。だけど」  深呼吸し、はっきりと答える。 「……そんなのは、『作り話』。フィクションであって現実には存在しないです」  この本は面白い、このゲームは好きだと楽しんでいても。心の底ではこんな事は現実で起こるはずがないとわかりきっている。  この物語はフィクションです。実在の人物などとは関係はありません。  そんな定型文が目に入るたびそりゃそうだと、苦笑が入ることもあった。  そんなものはない、と。誰かが考えた作り話。現実では起こるはずもない嘘。  はっきりと口にしたせいか心に棘が刺さるかのように気持ちが沈む。  ぎゅっと胸のあたりを握りしめ視線を下げる沢村を見る賢人は声をかけようとするが何も言えず、「父さん」と父親にひと言言う。 「ここでは『局長』と呼べと、言ったはずだぞ」  はっきりとしたその言葉に沢村は下げた視線をもう一度雄介に向ける。  父でもなく組長でもなく。局長と呼べと息子に言った。  それは、どういうことだろうか。 「沢村君にはある程度話したほうがいいのだろうな」  沢村の疑問の視線を雄介は受ける。 「これから話すことはすぐに理解できない内容が入っている。およそ普通とは程遠い内容だ。それでも、君は聞くか」  最終確認、なのだろう。これを聞いたら、直前までの何も知らなかった自分には戻れない。  知ってはいけないものごとを聞いてしまう。  知りたくないと言えば、嘘になる。  知ったらおそらく後悔すると思う。だけど。  目をつぶりもう二度ほど深呼吸し、目をあける。 「……お願いします、おじさん。いえ、月原『局長』」  沢村はまっすぐに雄介を見た。 「僕は、知りたいです」  沢村の覚悟に賢人はくやしさとうれしさが入り交じったような表情をし、雄介はただわかったと応えた。 「では話そう。普通からはずれた現実の裏、幻種とそれを観察し保護及び対処する魔術協会の話しを」
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