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第10章
修学旅行の朝がやって来た。
僕は、旅行持って行く荷物を、一つの大きなバッグに詰め込み登校した。
松本さんはいつものように、僕より早く教室に来ていた。
「おはよう」
僕は挨拶をしながら、教室に入った。
「おはよう。昨日は眠れた?」
と聞いて来た。
「よく寝たよ」
「本当?挨拶は覚えたの?」
「バッチリ。カンニングペーパー、作って来たから」
僕は、小さくたたんだ紙を松本さんに見せた。
「何を作って来ているのよ」
松本さんは、呆れた様に言い
「でも、本当は覚えて来ているのでしょう?」
と言った。
「やっぱり、分かる?」
僕が言うと
「もちろん、浦河の事ならね」
松本さんは、笑いながら言った。
「これは、忘れた時の用意さ」
僕はその紙を、制服のポケットの中にしまいこんだ。
さすがに修学旅行の朝と言う事で、登校して来る同級生の時間が、何時もより早くなっていた。
「どうした和幸?今日は学校に来るのが、何時もより早いな」
普段は遅刻ギリギリにやって来る近藤も、早く登校して来た。
「良いだろう。たまに早く来ても」
なんて言っている。
原田も、いつもにまして大きなバッグを持って来ていて、僕が
「そんな大きなバッグを持って来て、何が入っているんだよ?おやつは1人、300円までだぞ」
と言うと
「バナナは、おやつに入りますか?」
と言って来た。
「おやつには入らないけど、バナナは3本までだよ」
僕は、真面目な顔をして答えた。
そのやりとりを見ていた、辻本さんが
「修学旅行の朝から、何、バカな事を2人で言っているのよ」
呆れた様に言う。
「ハーイ」
「ゴメンナサーイ」
僕達は、返事をした。
松本さんと鈴木さんは、僕と原田のやりとりを、ニコニコしながら見ていた。そんな中、バタバタと久保先生が教室に入って来ると、出席を取った。
「バスが正門前に来ているから、移動する用意をしろ、座る椅子は班単位でまとまって座るんだぞ。それと、移動はまだしないで、自分が帰って来るまで待っているように」
それだけ言うと、教室を出て体育教官室に走って行った。
「先生。廊下は走っちゃダメですよ」
僕は、教室から身を乗り出して叫んだ。
先生は
「今日は特別」
そう言って、走って行ってしまった。
「行っちゃった」
僕は言った。
「そうみたいだね」
松本さんも言う。
「何か、忘れ物でもしたんだよ」
原田が言うのが、聞こえた。
しばらくして、先生はバッグを持って教室に帰って来た、そして
「じゃあ、バスに移動して」
先生は言った。
「先生、他の忘れ物は無いですか?」
教室の中から、笑い声が聞こえて来た。
「無駄話は良いから、早くバスに移動しろ」
先生は、少し怒った様に言った。
僕達はバッグを持って、正門前に止まっているバス2台に、クラス単位で乗り込んだ。
僕の横には、当たり前の様に、松本さんが座る。
そして、バスは空港に向かって出発した。
僕達の乗ったバスは、1時間程で空港に到着して、出発ロビーの前に止まった。
出国の手続きをして、飛行機に乗り込む、僕にとっては初めての飛行機で、クラスの半分位の同級生が、飛行機初体験だった。
飛行機の中でも、僕は松本さんと並んで座っていた。
周りから見ると、仲の良い恋人同士に見えていたかも知れないけど、僕は彼女に告白していなかった。
と言うより、告白してフラれるのが怖くて何も言い出せず、今のままの関係が良いと思っていたのだった。
「お嬢、緊張している?」
飛行機がターミナルを離れて、滑走路に向かっている時、僕は聞いた。
「ちょっとね。私、飛行機初めてのだから。浦河は?」
聞き返して来た。
「僕も初めてのだから、ちょっと緊張しているかな。・・・そうだお嬢、席を変わってあげようか?」
僕は、窓側に座っていた。
「良いの?」
「良いよ」
僕は言う。
「ありがとう」
僕は座席ベルトを外すと席を変わった。飛行機の窓から、外の景色を見たいと思ったけど、松本さんも飛行機が初めてだと聞き、外の景色を彼女に見せてあげたい、と言う気持ちが強かった。
ジェットエンジンの音が変わり、飛行機は徐々にスピードを上げていき、離陸した。
「あっ、浮いた」
松本さんが呟いた。
「うん。飛んだね」
僕も答えた。
飛行機は水平飛行になり、座席のベルト着用サインが消えた。
すぐさま席を立ち、窓際によってくる同級生もいた。
「スゲー。雲の上だー」
そんな会話が聞こえて来た。
飛行機の中では、軽食のサンドイッチが配られた。
松本さんが言う。
「でも、テレビで見た時は、肉とか魚とかが、出ていたような気がしたけど」
僕が言った時、その話を聞いていた鈴木さんが
「浦河君が見たのは、アメリカとか長距離を飛ぶ飛行機の機内食なの」
と、教えてくれた。
「良く知ってるね、鈴木さんは飛行機に乗った事があるの?」
僕は聞いた。
「何度かね」
ちょっと、自慢したように言う。
「スゴいね」
松本さんも言った。
「でしょー」
鈴木さんが言った時
「ハイハイ、そこで自慢しないように」
原田が言って来た
「してないでしょう」
鈴木さんが、怒った様に言った。
「ハイ。していません」
原田は小さくなった。
僕と松本さんは、そのやりとりを笑いながら聞いていた。
飛行機は、韓国ソウルに有る金浦国際空港に到着し、入国審査を受けて、僕達、修学旅行団は韓国の地に降り立った。
空港を出ると、迎えのバスが来ていて、クラス別に乗り込んだ。
バスが出発して、しばらくすると、久保先生が
「今から韓国の通過に両替するから、3000円を用意して」
と言った。
「300円で、良いのですか?」
バスの後ろの方から、声が聞こえた。
「良いから、お金の用意をしろ。残りのは両替は、ホテルで出来るから、自分達でやってみろ」
そう言って、封筒に入ったお金を配り始めた。
僕は先生に
「取らないで下さいよ」
と言いながら、3000円を渡し、封筒を受け取った。封筒の中には、韓国通貨のウォンが入っていた。
普段見たことの無い紙幣を見て
「何か、オモチャのお金みたいだね」
僕は素直に思った事を、松本さんに言った。
「そうね」
彼女も、そう思ったみたいだった。
僕は、両替してもらったお金を、財布にしまいこんだ。
今回の修学旅行に一緒に参加していた、学年主任の浦本先生は、1組のバスに乗っていた。
見学地や食事等でバスを降りた時、浦本先生を見るたびに、顔がニヤケテいるように見えて仕方なかった。
修学旅行前に、僕が浦本先生に直接
「何で、修学旅行の行き先が韓国なんですか?」
と聞いた時に
「東京に行くより近いし、料金は安いし、アンケートで1番多かったから、韓国に決定したんだ」
と言ったので、僕が
「本当は先生が、韓国に行きたかっただけでしょう?」
と追求したけど
「そんな事は無い。みんなのアンケートの結果を尊重しただけだ」
と否定した。
だけど、旅行中の浦本先生を見るたびに、僕は、この修学旅行が浦本先生の個人的判断と言うやつで、行き先が決定したものだと確信していた。
浦本先生なら、自分の判断で修学旅行の行き先を決める事位の影響力は持っていると思っていたし、修学旅行に出発する2週間前に、下準備と言いながら、韓国に来ていた。
修学旅行は、初日、2日目と順調に過ぎて行き、特に変わった事もなく過ぎて行った。
そうそう、変わった事と言えば、1組の山田が初日に立ち寄った、田舎の小さなキムチ屋でお土産のキムチを買い、自分の旅行バッグに入れていたら、次の日袋が破れて、バッグの中がキムチまみれになっていたと言う事件?があった。
僕達が
「何で初日に、キムチなんて買ったの?」
と聞いたところ、本人いわく
「こういう田舎の小さな店で買ったキムチが、旨いに決まっているから買ったの。都会で売っているキムチは、観光客用だから、きっと旨くない」
と言う、持論を展開していた。
宿泊していたホテルは、ソウル市内にあり、15階建ての高さで、僕達はその7階と8階に泊まっていた。
3人部屋で、僕は同じ班のメンバーと同じ部屋だった。
ちなみに、女子が8階で男子が7階に泊まっていて、エレベーターの前には、交代で先生が見張っていて、階段もエレベーターの横にあったので、先生の監視の目を盗んで、8階に行く事は出来なかった。
同級生が何度か、彼女に会いに行こうとしたらしいけど、全て先生に見つかったらしかった。
そして、運命の交換交流会の日がやって来た。
昼間に、相手の高校を訪問して、授業風景を見学して、夜に僕達の泊まっているホテルで、相手の高校の代表と交流会をする予定となっていた。
「そろそろ、行こうか?」
原田が言う
「そうするか」
僕が返事をした。
僕達が、ホテルのロビーに行った時、他の部屋の同級生は集まっていた。
そして、僕達はバスに乗り込み、訪問先の高校に向かった。
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